【映画レビュー】MOTHER マザー
17歳の少年が母の教唆のもとに実の祖父母を殺すという実在の事件を下敷きに、母と息子の複雑な道行きを描いた映画『MOTHER マザー』。
長澤まさみが、男や家族や息子に依存して行き当たりばったりに生きていく、無職のシングルマザーを鮮烈に演じています。
彼女が演じる秋子は、正直まったく理解できないキャラクターではありますが、理解できないからこそ、その深淵をのぞき込みたい気分になる、そんな作品です。
<STORY>
秋子は無職のシングルマザー。生活保護を受けながら、一人息子の周平を育てている。ホストの遼と付き合い始め、周平のことはほったらかしだ。秋子を気にかける市役所職員の宇治田を遼が刺してしまったことから、遼と秋子、周平はラブホテルを転々とし、逃げる羽目に。しかし、秋子の妊娠が発覚し、遼は秋子から離れていく。それから5年、秋子と17歳となった周平、幼い妹の冬華は、ホームレスのように路上で暮らしていたが…。
<解説>
この映画のタイトルともなっている、長澤まさみが演じた“マザー”秋子。
無職。
計画性なし。
働く意欲なし。
家族や男にたかる。
恐喝なども辞さない。
気にくわないことがあると大声をあげる。
自分が悪いという意識や反省意識もない。
行きずりの男と関係を持つ。
男との旅行に小さな子どもを置いていく。
子どもを学校に行かせない。
どんなにお金がなくても働かない。
彼女の特徴をざっとあげてみました。ひどいとしか言えません。
彼女の行動を理解はできないし、しようとも思えない。
でも、映画を観ているうちに、「ケーキの切れない非行少年たち」という本を思い出しました。
それは、認知力の弱い少年・少女たちのことを取り上げた新書で、非行に走って少年院に入ることになった少年・少女たちの中には知的障害には分類されないけれど、本来ならば支援が必要な“境界知能”に分類されることがが多いと述べられています。
この本で取り上げられている“境界知能”の少年・少女たちの特徴は、驚くほど秋子の特徴にぴったりでした。
その特徴とは以下になります。
・認知機能の弱さ…見たり聞いたり想像する力が弱い
・感情統制の弱さ…感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる
・融通の利かなさ…なんでも思いつきでやってしまう。予想外のことに弱い
・不適切な自己評価…自分の問題点がわからない。自信があり過ぎる、なさ過ぎる
・対人スキルの乏しさ…人とのコミュニケーションが苦手
考えてみれば、秋子も支援が必要な存在なのです。
でも、彼女はその時の状況や人の気持ちを理解できず不適切な行動をとってしまいます。
すぐにキレて人から嫌われ、家族や元夫からも縁を切られたりしてしまいます。
思いつきの行動しかできないので、仕事につくより簡単に金を手にできる犯罪に手を染めてしまいます。
児童相談所の職員など、助けてくれる人が現れても、ちょっと気にくわないことがあれば感情のままに怒鳴り散らし、見捨てられていきます。
子どもの将来設計など考えたこともありません。
そして自分の問題点にも気付けず、すぐにトラブルを抱え、孤立していくのです…。
彼女は周平と冬華、そしてホストの遼以外とは長期的な人間関係を築けません。
女として男たちとセックスをすることはあってもただの性欲処理の相手としかみなされず、体目当てに屋根のある部屋を提供されることすらないのです。
秋子と家族的な関係となる遼も、ある種、秋子と同種の人物として描かれています。
子どもができたと聞いても「責任を取る」という考えはなく、そのまま逃げていく、そんな男です。
ホストと言っても太客を持っているわけでもなく、金を稼げるわけでもなく、行き当たりばったりに闇金から返すあてのない金を借りて、窮地に追い込まれていく…。
言って見れば、似たような二人で、だからこそ二人は惹かれあい、お互いを必要としあったのかもしれません。
そして、秋子、遼、周平と出口のない共依存関係に陥り、断裂は連鎖し、悲劇が起こってしまったのでしょう。
秋子は、なかなか理解しがたい人間ではありますが、彼女たちのような存在は、確かに社会の中にいるのです。
少年による祖父母の殺害事件というショッキングな題材をもとに、大森立嗣監督は日本のある層の現実に光を当ててくれました。
『MOTHER マザー』(126分/日本/2020年)
公開:2020年7月3日
配給:スターサンズ、KADOKAWA
劇場:TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて
原案:山寺香「誰もボクを観ていない」
監督・脚本:大森立嗣
脚本:港岳彦
音楽:岩代太郎
出演:長澤まさみ/阿部サダヲ/奥平大兼/夏帆/皆川猿時/仲野太賀/木野花/大西信満/土村芳/郡司翔/浅田芭路/たかお鷹/荒巻全起/大場泰正/小林千里/小林勝也
Official Website:https://mother2020.jp/
ポプラ社 (2020-04-07T00:00:01Z)
¥1,970
新潮社 (2019-07-13T00:00:00.000Z)
¥713
バップ (2010-09-21)
¥11,500 (中古品)
パラマウント (2018-11-21T00:00:01Z)
¥1,000
Happinet(SB)(D) (2011-10-17)
¥5,500