【映画レビュー】牛の鈴音 / OLD PARTNER

牛の鈴音(うしのすずおと) [DVD]

韓国で異例の大ヒットとなったドキュメンタリー映画『牛の鈴音』

韓国の田舎の自然の中、自然と対峙しながら懸命に生きる老人の姿に、“現代人が忘れていた何か”を思い出させてくれます。

無口なお爺さんと、文句ばっかり言っているおばあさん、ヨロヨロしながら文句も言わず(言えないけど)働く老牝牛と、働かずに他の牛の分までエサばっかり食べている若い牝牛。
彼らのキャラクターもナイスです。

<STORY>
79歳のチェ爺さんが飼っている牛は40歳。牛の平均寿命は15歳だから、相当な長生きだ。獣医から「この牛の余命は後1年だ」と言われ、爺さんは若い牝牛を買ってきた。しかし、普段の農作業に爺さんが連れていくのは、年老いた牝牛。足もともおぼつかない牝牛に牛車を引かせ、足の弱い爺さんは農作業に向かう。おばあさんは「爺さんは牛の世話ばっかりで、自分は苦労ばっかりだ」と、不満を口にするが、爺さんは聞く耳を持たない…。

<解説>
韓国での封切り時、最初にこの映画を上映したのは、たったの7館でした。
それがクチコミにて評判になり、150館に上映が拡大。
メジャー作品を抑えて、2週にわたり、興行成績ベスト1を獲得したそうです。
この映画の何が、韓国の人々の心をとらえたのでしょうか?

この映画のお爺さんは、足が悪いにも関わらず、毎日働き続けます。
お婆さんにどんなにしつこく「体の調子が悪いんだから休め」と言われても、どこ吹く風。
しつこいお婆さんに怒りだす始末。

お爺さんにとって、「生きることは働くこと」なのです。
だから、自分も絶対に休まないし、年老いてヨロヨロとした牝牛を、休まず仕事に連れていく。

どんなに効率が悪くても、牛のエサは人口の飼料は使わずに、自分で草を刈ってくる。
畑に農薬を使えば草が生えず、草取りの手間がなくなるのに、牛のエサのために農薬を使わない。

こういう、昔ながらの仕事を愚直にやり続けるお爺さんに、韓国の人々は心を打たれたのではないでしょうか。
自分では、そんな生き方はできないからこそ…。

また、奇しくも近所の人に「この牛はあんたの業だよ」と言われたように、牛とお爺さんの関係性も本当に深いものです。
傍から見れば動物虐待じゃないかと思うくらい、年老いた牛をこき使っているわけですが、映像を観ているとお爺さんへの牛への愛が本当に伝わってきます。

なんたって、お婆さんがお爺さんに何を言ってもお爺さんは無視しているのに(お婆さんの言葉のほとんどが文句だからかも)、お婆さんの言葉の途中に牛が鳴くと、必ずお爺さんは心配そうに牛の方を見やるのです。
高齢で耳が遠くなってお婆さんの言葉が聞こえないのかと思ったりもしますが、牛の言葉は聞こえるのですね。
きっと、その鳴き方のニュアンスで、牛の気持ちもわかるのかもしれません。

そして、このドキュメンタリーで忘れてはいけないのは、お婆さんの存在。
本当に、来る日も来る日も
「この人に嫁いだせいでわたしは大変だよ」
「牛がいるせいで仕事が増えてしょうがない」
「毎日毎日働きづめで、こんな人生は不幸だよ」
と、文句ばっかり言っているのですが、それが全然いやな感じがしないのです。
むしろお婆さんが次にどんな不平不満を口にするのか、楽しみになってくるほど。

どんなに文句を言っても、最終的にはお爺さんに従い、お爺さんの体調を心配するお婆さん。
文句ばっかり言っていても、お爺さんへの愛を感じることが出来るのです。

この『牛の鈴音』には、牛とお爺さんの生活を通して、現代の人間が忘れかけている、自然とともに生きる昔ながらの生活が描かれています。
そこには自然があり、パートナーとしての動物との触れ合いがあり、夫婦愛があります。

派手なエンターテインメント作品ではないけれど、年に一回くらい、こういう映画を観て、自分たちの祖父や祖母たちの生活に想いを馳せてみるのもいいかもしれません。

とはいえ、自分がこんな生活をしろって言われたら、とてもできませんが…。

 
『牛の鈴音』(78分/韓国/2008年)
英題:OLD PARTNER
公開:2009年12月19日
配給:スターサンズ、シグロ
劇場:シネマライズ、銀座シネパトス、新宿バルト9ほか全国にて
監督:イ・チュンニョル
出演:チェ・ウォンギュン/イ・サムスン
公式HP:http://www.cine.co.jp/ushinosuzuoto/

 

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