【映画レビュー】マザー
あの楳図かずおが初めて映画の監督に挑戦し、さらには原案・脚本も手がけたという映画『マザー』。
どんな作品なんだろうと興味津々で観に行ったわけですが、楳図先生のクリエイター、そしてエンターテイナーとしての才能に感銘を受けました。
いやー、やっぱりある世界で一流と言われる人は、他のジャンルを手がけてもやはりすごい才能を見せるものですね。
長年、恐怖マンガやギャグマンガの第一線を走ってきた人だけあって、どういう風に見せれば観客が怖がるか、どういう風に見せれば観客が面白がるか、熟知しているという感じがします。
深読みのし過ぎかもしれませんが、タイトルのちょっとチープな映像処理までも、恐ろしさを感じさせたり。
最後の最後まで、観客を怖がらせよう、面白がらせようという工夫が満載で、ニヤニヤさせてくれました。
しかも、監督ってば、ネタのためなら自分の母親すらとことんネタにしてしまうという…。
良い作品を作るためならなんでもしてしまう、まさに真のクリエイター、エンターテイナーだと思います。
STORY
漫画家・楳図かずおの家に、新人女性編集者・若草さくらがやって来る。彼の大ファンだと言うさくらは、楳図の生い立ちを本にしたいと言うのだ。さっそくさくらのインタビューが始まり、楳図は漫画家になり一生のテーマとして“恐怖”を選んだ理由や、母・イチエの想い出を語り始める。母・イチエが楳図に大きな影響を与えていると考えたさくらは、楳図が幼少期を過ごした奈良県の曽爾村を訪ね、イチエの過去を調べ始めるのだが…。
解説
ラブリンこと歌舞伎役者の片岡愛之助が主人公・楳図かずおを演じるこの作品。
楳図かずおのトレードマークとも言える赤白ボーダー(これが何種類かバリエーションがあることにも注目)のロングTシャツを着こなして、売れっ子の恐怖マンガ家を演じています。
そして、楳図かずおの母・イチエを演じるのは、真行寺君枝。
哀しい過去を持って生きてきて、不思議な言葉を遺して死んだイチエを不気味に演じています。
そして、そんな楳図とイチエの過去を調べる女性編集者・さくらを演じるのが、宝塚出身の舞羽美海です。
さくらがイチエの過去を調べるうち、楳図の周辺に不思議な出来事が起こり始めます。
そして、その出来事がイチエが亡くなる前に語っていた言葉と一致していることに気付き、楳図は真相に迫っていくのですが…。
監督の楳図かずおは、自分の母親を、悲惨な過去を持ち、死んでからも息子たちに祟るという恐ろしいキャラクターとして描いています。
プレスには“私の生い立ちの事実を基に、思い切り嘘に嘘を塗り固めて出来上がったのがこの作品”とのコメントがありますが、これが事実だと信じてしまう人もいるわけで…。
クリエイターにとっては、家族もネタのひとつなわけですね。
でも、そんな中でも主人公の楳図かずおがクールでカッコいい作家として描かれていたり、唐突な愛の告白があったりするあたりは、クリエイターと自己のエゴのせめぎ合いというところでしょうか。
ファンとしてはくすりと笑って楽しめました。
そう言えば、楳図かずおの家のシーンでは、監督自身の家がロケに使われているそうで、セットでは出せないリアリティや生活感が満載。
食卓の向こうでじっとカメラを見つめている小さなまことちゃん人形も、かなり効果的に使われています。
梅図かずおのクリエイター魂や自意識、さらには普段の生活まで垣間見えるこの映画『マザー』。
楳図かずおの作品をそんなに読んでいない人にも、楳図かずおという天才を知るいいきっかけになるのではないでしょうか。
作品情報
『マザー』(83分/日本/2014年)
公開:2014年9月27日
配給:松竹メディア事業部
劇場:新宿ピカデリーほかにて
原作・監督・脚本:楳図かずお
出演:片岡愛之助/舞羽美海/真行寺君枝/中川翔子
公式HP:http://mother-movie.jp/
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