【映画レビュー】マイ・バック・ページ
妻夫木聡と松山ケンイチの競演が話題の山下敦弘監督の映画『マイ・バック・ページ』。
1969年から始まる映画というので、“LOVE & PEACE”で牧歌的でハッピーな青春物語かと思いきや、学生運動家とそれを取材するジャーナリストを描いたビターな物語でした。
あるシーンで、「ん、これは観たことある…。熊切和嘉監督の『鬼畜大宴会』っぽい。。。」と思っていたら、別のシーンで熊切和嘉が役者として登場していたようです。
これは、『鬼畜大宴会』にスタッフとして参加していた山下敦弘と向井康介(本作の脚本家)からのオマージュなのかな。
STORY
新聞社に入社し、週刊誌編集部に配属になった東大卒のジャーナリスト・沢田。理想に燃える彼は、左翼の活動家たちを取材していた。ある日、自ら売り込んで来た新進活動家・梅山という男と接触し、沢田はどこか彼に共感を覚える。1971年のある日、自衛隊の駐屯地で自衛官が殺害されるという事件が起こる。梅山はその事件を自分たちが起こしたものだと言い、沢田に証拠となる腕章を預けた。沢田は彼を取材し、記事を掲載しようとするが…。
解説
この映画は、文芸・映画評論家・川本三郎の自伝を綴ったノンフィクション「マイ・バック・ページ – ある60年代の物語」を映画化したものです。
妻夫木聡が演じているのが、川本三郎氏に当たる沢田雅巳。
そして松山ケンイチが演じているのが、学生運動から発展した左翼運動軍「赤邦軍」のリーダー、梅山です。
1960~70年代の、左翼運動が盛り上がる空気の中、自分も何かしたいと思いつつも、傍観者としてその運動を見守ることしかできず、何か物足りない気分でいる若きジャーナリスト・沢田。
彼は、自称・左翼活動家の梅山に出会い、その不思議なカリスマ性に、どこか共感を覚えて行くのです。
この梅山は、自分では左翼活動家であると信じているし、周りに心酔してくれるシンパも存在します。
それで、いっぱしの活動家を名乗り、いくつかの活動をし、いろいろな人に会ったりもします。
でも、年の近い人間や自分より若い人に認められることはあっても、年上の人からはなかなか認められません。
なぜなら、彼が左翼運動に目覚めたきっかけは、今で言うところの“自分探し”だから。
「今なら何かができると思った」というきっかけで始めた学生運動や、ディベートで負けそうになると声を荒げてごまかそうとする彼のことを、視野が広く持った人間が、信用するわけはありません。
彼について来てくれるのは、視野が狭かったり、時代の空気に浮かされて眼鏡がくもっていたりする人間だけ。
「自分はすごい人間なんだ。なのに、誰も自分を認めてくれない」
そんな状況に苛立ち、梅山率いる赤邦隊は、大変な事件を起こしてしまうのです。
そんな自分の実力と魅力をまっすぐに信じている梅山を、松山ケンイチは魅力的に演じています。
なんというか、うさんくさいんだけれども、抗いがたい魅力があるというか…。
近づけば近づくほど、離れられなくなる、どこかセックスアピールを感じさせる、危うい若者なのです。
「あなたのことがわからない」と泣く女性を「お前のために世界を変えたいんだ」とセックスに持ち込んでごまかそうとするシーンは、そのうさんくささの白眉とも言えましょう。
左翼運動にとても近いところにいながらも、傍観者でしかいられないことに密かに苛だちを感じていた沢田は、危ないと思いつつも彼にひかれ、素の自分とジャーナリストとしての自分の板挟みになり、事件に巻き込まれてしまうのでした。
この、どっちつかずで大人と子どもの板挟みになっている沢田を、しょぼくれた感じて演じている妻夫木聡も、なかなかの演技を見せています。
役柄的に松ケンの方が派手で、目立つのは否めないですが。。。
ただ、二人とも確かな実力を身に着けた、魅力のある俳優であることは間違いないと思います。
私は、学生運動をした人たちの子どもの世代なので、学生運動に関して、あまりちゃんとした知識を持っていません。
でも、イメージとしては、どこかうさんくさいというか、結局は若者の自己顕示欲や性的衝動がもたらした情熱でしかなかったのではないかというイメージを持っています。
もちろん、きちんとした信念を持って活動に取り組んでいた人も多かったのだろうとは思いますが、ブームやポーズで活動に参加していた人も多かったのではないか、という印象があるのです。
松山ケンイチの演じる梅山は、まさしく、“ブームやポーズで活動に参加していた人”を体現していました。
1976年生まれの山下敦弘監督も、私と同じようなイメージを、学生運動に対して抱いていたのかもしれません。
1970年代、若者が「自分たちの力で世界を変えられる」と信じていた時代…。
この映画『マイ・バック・ページ』は、そんな熱狂の時代に生まれ、その熱狂が冷めた後の白けた空気の中で「自分たちが何をしたって世界は変わらない」と思って育った世代からの、ひとつの答えなのかもしれません。
作品情報
『マイ・バック・ページ』(141分/日本/2011年)
公開:2011年5月28日
配給:アスミック・エース
劇場:新宿ピカデリー、丸の内TOEIほか全国にて
原作:川本三郎
監督:山下敦弘
脚本:向井康介
出演:妻夫木聡/松山ケンイチ/忽那汐里/石橋杏奈/韓英恵/中村蒼/長塚圭史/山内圭哉/古舘寛治/あがた森魚/三浦友和/熊切和嘉
公式HP:http://mbp-movie.com/
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