凶悪

2013/8/3 日本映画か行, 映画レビュー

実在の殺人事件などのルポが多く、下世話な興味を満たしてくれていた雑誌「新潮45」。
編集長が変わってちょっと路線が変わって以来あんまり読んでいませんが、昔はよく読んでいました。

そんな「新潮45」編集部に届いた手紙をきっかけにして暴かれた事件の顛末を綴ったベストセラー・ノンフィクション「凶悪ーある死刑囚の告発ー」が映画になりました。

それが、この映画『凶悪』です。

普通に暮らす一般人からはなかなか想像のつかない“殺人”は、どういう状況で、どういう心理で行われるのか…。
そして、ジャーナリストはどういう心境で殺人事件を取材しているのか…。

彼らの心理状態は、下世話な視点で事件を見ている一般人として、なかなか興味深く見ることができました。

＜STORY＞
「明潮45」の記者・藤井修一のもとに、死刑囚・須藤純次から手紙が届く。それはかつて自分が犯した3件の余罪を告白するものだった。その首謀者の“先生”という男がのうのうと娑婆で生きているのが許せず、告発したいと言うのだ。“先生”は木村孝雄と呼ばれる不動産ブローカーで、彼の指示で老人を殺して木村が土地を手に入れていたと言う。上司からは須藤の取材を止められたものの、藤井は取材を続け、須藤の証言の裏付けをとっていく…。

＜Cheeseの解説＞
ピエール瀧が須藤純次という何人もの人間を殺害した死刑囚を、そしてリリー・フランキーがこの須藤に裏で指示する殺人の首謀者を演じているこの映画『凶悪』。
元は俳優が本業だったわけではない二人が、恐ろしい凄みを持つ殺人者を見事な演技力で演じています。

特に、ニコニコしていた表情から一転、凄み溢れる鬼のような形相を見せるピエール瀧の演技は、迫力の一言。
電気グルーヴのライブでかぶり物で踊っている瀧と同一人物とは、とても思えませんね。。。

そして、人を殺しておきながら楽しそうにへらへらと踊るリリー・フランキーのへなちょこなダンスも、それがへなちょこであるが故に恐ろしく…。
なんだかゾクゾクするような得体の知れなさを感じさせてくれました。

こんな二人の起こした事件を調べていく記者・藤井を演じる山田孝之は、認知症の母の介護という毎日の平凡な生活から逃げ出し、異様な事件にのめりこんでいく記者を、地味に好演。
「真実を明らかにし、正義を果たす」という大義名分を掲げつつも、実は興味や好奇心から非凡な人間にひかれていく男の姿は、かなりリアリティがありました。

ピカレスクというわけではないですが、常人にはなし得ない犯罪を犯した人間には、どこか人を引き付ける麻薬のような“何か”があり、弱い人間はその“何か”に惹かれてしまうのでしょうね。
そして、一般大衆は、麻薬のような“何か”の上澄みだけを、下世話な好奇心から消費しようとするのでしょう。

それにしても、この作品を観た直後、「あまちゃん」に寿司屋の梅頭さんが出てくると、「梅さん、いつか包丁を鉈に持ち替えて、人間さばいたりし始めないかしら…」と、ちょっと恐ろしくなったりしてました。

物語自体の強さに加え、役柄にぴったりはまった役者たちの演技が、さらに強さを加えているこの映画『凶悪』。
脚本＋キャスティングの見事な化学反応が楽しめる、注目の一作です。

別コラム：オトコに見せたいこの映画『凶悪』

『凶悪』（128分／日本／2013年）
公開：2013年9月21日
配給：日活
劇場：新宿ピカデリーほか全国にて
原作：新潮45編集部
監督・脚本：白石和彌
脚本：高橋泉
出演：山田孝之／ピエール瀧／池脇千鶴／リリー・フランキー／白川和子／吉村実子／小林且弥／斉藤悠／米村亮太朗／松岡依都美／ジジ・ぶぅ／村岡希美／外波山文明／廣末哲万／九十九一／原扶貴子
公式HP：http://www.kyouaku.com/