クジラのいた夏
ここ最近“マイルドヤンキー”なる言葉がバズっております。
上京志向がなく、地元から出ず、幼い頃からの仲間たちと仲良く生きていきたいと思っている人たちを指す言葉なのだと思いますが、この映画『クジラのいた夏』には、まさにそんな“マイルドヤンキー”な若者たちが登場します。
しかし、登場人物の全員が“マイルドヤンキー”というわけではありません。
若者の中には、一定数「自分は特別なのだ」「こんな何もない街なんかにはいられない」という、無根拠な自信を持っている人間もいるもので…。
本作の主人公のチューヤは、何の予定もなく、かつ何の夢もなく東京に出て行こうとしている若者です。
他にも、小さい頃から可愛い可愛いと地方都市でもてはやされ、自信たっぷりに女優を目指して東京に出て行った若者も登場します。
彼らの言動が、地方出身で東京に出て来た私にとっては、痛い痛い。
彼らの若さゆえの無根拠な自信、無自覚な地元蔑視、無知な楽観性を、なんとなく顔から火が出そうな思いで眺めていたのでした。
でも、この映画みたいに、自分のことを真剣に考えてくれ、生き方を認めてくれる友人というものは、とても素晴らしいものですね。
<STORY>
何の目的もなく生まれた町で暮らしていたチューヤは東京へ行くことに決める。上京前日、高校時代からの悪友のJ、ギズモ、町田らが大送別会を開いてくれるはずだったが、参加者がほとんど集まらない。そこでJたちは、チューヤがかつて好きだった女の子や元カノたちに会いに行くことに。彼女らの変貌にショックを受けるチューヤに追い打ちをかけるように、東京で女優として活躍しているはずのチューヤの憧れの弓子先輩と再会するが…。
<Cheeseの解説>
ある携帯キャリアのCMで「たった3年で人生は変わる」と言ってますが、そんなのは至極当然のことで、あのCMを見ても誰もが「そりゃそうだろ」と思うだけで、なんの感慨もわかないことと思います。
この映画『クジラのいた夏』は、そんな、激動の人生の転換期を生きる若者たちのお話です。
彼らがこれから過ごす3年間で、彼らの人生の進路は大きく別れて行くのです。。。
「このまま地元にいたら何も変わらない。好きだった弓子先輩に会えるかもしれないし、そうだ、東京行こう!」
と、なんとなく東京に出ることを決意した主人公のチューヤ。
父親の工務店を継ごうとしているJ、実家のお寺の跡を継ぐことが決まっているギズモ、何も考えていないような町田ら、地元に残る三人の悪友は、チューヤのことを考えて、チューヤのために送別会を開きます。
流されるように町を出ようとするチューヤに対し、本当にそれでよいのか、3人は考えるきっかえを与えようとするのです。
3人はチューヤに関係する3人の女の子たちの現在の居場所を調べ、彼女たちのもとへチューヤを連れて行きます。
彼女たちがこれまで過ごして来た3年間は、チューヤの想像を超えていました。
彼女たちは、それぞれに人生の転機を迎え、大人へと成長していたのです。
彼女たちの変貌ぶりに、チューヤは“何も変わっていない自分、何も成長していない自分”を実感するのです。
人生の激動期というのは、人がいい意味でも悪い意味でも成長せざるを得ない時期。
そんな時に、一人モラトリアムを生きるチューヤは、一人だけが子どものようです。
そんなチューヤが大人になるきっかけが、3人の悪友たちが用意した大送別会。
その大送別会を経て、初めてチューヤは、流されるのではなく、自分でこれからの人生について、自分で決断することになります。
それにしても、こんな風に、友人の人生を真剣に考えて、ある意味余計な口出しをできるのなんて、20代前半までかもしれません。
まだ自分の人生に口を出されても許される時期。
そして、まだ自分の人生も、大きく修正が効く時期なのです。
そんな、若い青年たちが自分の人生を歩み始める一日を描いた映画『クジラのいた夏』。
少し苦くて少し爽やかな感動を覚える、若くまぶしい一作です。
『クジラのいた夏』(89分/日本/2014年)
公開:2014年5月3日
配給:ユナイテッドエンタテインメント
劇場:シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国にて順次公開
監督・脚本:吉田康弘
脚本:大浦光太
出演:野村周平/松島庄汰/浜尾京介/松岡卓弥/佐津川愛美/土井玲奈/気谷ゆみか/小野賢章/大坪あきほ/鈴木美香
公式HP:http://www.kujira-movie.com/
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