【映画レビュー】キング・オブ・シーヴズ ／ King of Thieves

2015年にロンドンで実際に起こった窃盗事件を映画化した『キング・オブ・シーヴズ』。

60代以上のベテラン泥棒たちが、ロンドン随一の宝飾店街ハットンガーデンにある貸金庫から1400万£（25億円）相当の宝石や現金を盗んだというこの事件、英国では大きな話題となり、『Hatton Garden the Heist』(2016)、『ハットンガーデン・ジョブ（The Hatton Garden Job）』(2017)と既に二度も映像化されています。
イギリス国民がこの事件にどれだけ高い関心を持っていたかがわかるというもの。

2018年にジェームズ・マーシュ監督の手で映画化された本作『キング・オブ・シーヴズ』では、マイケル・ケインを主人公に、ジム・ブロードベント、トム・コートネイ、ポール・ホワイトハウス、レイ・ウィンストン、マイケル・ガンボンといった錚々たる名優たちが、人間臭く猜疑心に満ちた泥棒たちの様子を生々しく演じています。

しかし、どんなに泥棒役で下卑た姿を見せていたとしても、きちんとしたスーツを着こなす姿はやっぱり最高にかっこいい……。英国紳士の底力を見せられた気がします。

マイケル・ケイン、トム・コートネイ、マイケル・ガンボンという、ナイトの称号を持つ俳優が3人も出演している本作。
とはいえ本作はそんなに格調高い犯罪映画というわけではなく、どちらかというと英国の労働者階級の、あまり品の良くない層のお話。
特に、マイケル・ガンボンの登場シーンなんて、ダンブルドア校長とのイメージの落差にちょっとショックを受けるほどです（笑）。

そんなちょっとお下品な泥棒たちが起こすこの「ハットンガーデン事件」は、ハットンガーデンの貸金庫の警報システムが15〜20年もの間更新されていないことを知る”Best Alarm Specialist In London”が、その警報システムに対する知識を活かし、オールドスタイルな侵入方法で強盗を完遂しようと目論んだもの。
いわば若者が自分の知識を活かして、おじいちゃんたちをそそのかし、おじいちゃんたちを金庫にしのびこませたのです。

対するおじいちゃんたちも、かなりグダグダ。見張り役が途中で寝ちゃったり、必要な道具を持ってきていなかったり、うまくいかなくなったら喧嘩しちゃったり、強盗の最中に仲間割れして途中で抜けちゃったり、一度帰ってまた来ようとするなど、「こんないい加減で大丈夫なの？」と驚くほどです。

でも、それに輪をかけてグダグダなのが、彼らがしのびこむハットンガーデン・セーフデポジット社の貸金庫だったりするから恐ろしい。
警報システムは10年以上更新されていないし、不法侵入警報器が鳴っても放置しているし、やってきた警備員も郵便受けを覗くだけで帰っちゃうし、4月2日から4月5日にかけて行われた強盗に4月7日まで気づかないのです。
まあ、だからこそ、こんなグダグダな強盗が成功したのだと思いますが……。言ってみれば、最新鋭の警備システム（と思われていた）の知識を持った男が計画した、昔ながらのオールドスタイルな強盗事件なのです。

強盗事件の描き方も、事件の詳細を描くというより、そのプロジェクトを通じて変化していく泥棒仲間たちの人間関係や心情を中心に描いています。
だからこそ、セリフはなくともその顔に刻み込まれた皺の一つひとつで感情を表現できる名優たちが出演するにふさわしい物語だったと言えるでしょう。

なぜか彼が“泥棒の王”と呼ばれていたのか？
果たして“泥棒の王”とは誰なのか？
なかなかに、深いタイトルだと思います。

そういえば、この作品の中には、登場人物たちの過去の犯罪を描くシーンに、出演俳優たちの過去作の映像が挟まれています。

1969年の『ミニミニ大作戦（The Italian Job）』（マイケル・ケイン）、1979年の『ＳＣＵＭ／スカム（Scum）』（レイ・ウィンストン）の他にも、1977年の『Sweeney!』からのシーンもあるそう。

昔から数多くの作品に出演している彼らだからこそ、可能になったこの演出。
名優の若かりし頃の映像を楽しめるのも、なかなか楽しいものですね。