【映画レビュー】ゲゲゲの女房

2010/10/22 日本映画か行, 映画レビュー

同じ物語でも、テーマが違うとここまで違った感触の作品になるのか…。
当たり前のことかもしれないですが、ドラマとの質感の違いに少々驚かせてもらった映画『ゲゲゲの女房』。

漫画家・水木しげるさんと奥さま・武良布枝さんの結婚生活を描いた作品です。

私は向井理くんのファンだし、どっちかって言うとクドカンは好きじゃないし、毎日朝の連続テレビ小説を録画して見ていた人間ですが、この「ゲゲゲの女房」に関しては、映画版に軍配をあげるなぁ。
日常生活に潜む妖怪たちや、線画アニメで登場する鬼太郎と妖怪ギター弾き(正式名称不明)も素敵だった。。。

＜STORY＞
出雲の安来出身の布枝は、お見合いからたった5日で貸本漫画家の水木しげると結婚。ほとんど知り合いのいない東京の調布で暮らし始めた布枝だが、結婚生活は事前に聞いていた話とは大きく違っていた。貸本漫画は不景気で、原稿料も聞いていた額の半額に値切られる。極貧生活に苛立つ布枝だが、だんだんとしげると心が通い始めた。布枝はしげるのアシスタントも務めるようになり、しげるの漫画にかける情熱を目の当たりにする。

＜解説＞
ちょっと不思議なイメージのこの作品。
家にぬらりひょんが上がり込んでいたり、川にはあずきあらいや川男がいたり、まるで妖怪のような登場の仕方をする人間がいたり、ちょっと不思議な世界です。

でも、なぜか私が感じたのは、圧倒的なリアリティ。

片腕を無くすとはこういうことか、貧乏とはこういうことか、昭和30年代とはこういいう時代か、「見えんけど、おる」というのはこういうことか…。
なんとなく漠然としたイメージしか持っていなかったこれらのことを、この映画は部屋の斜め上にいる家の神様の視点のような、俯瞰の映像で見せてくれるのです。

でも、一番強く感じたのは、「夫婦になるというのは、こういうことなのか」ということ。

6日前まで全く知らなかった人と結婚し、生活週間も全く違う。
優しい言葉ひとつかけてくれない、掴み所のない男性と暮らしていかなければならないのです。

布枝は、劇中で何度も壁にかかった時計のネジを巻きます。
誰かが時計を巻いて時間を進めてくれるのを待つのではなく、ネジを自分で巻いて、自分で時計を進めなければ、家の時間は進んでいかないのです。
そうやって、自分でネジを巻いて進めて来た時間だからこそ、積み重ねた夫婦の時間が貴重なものになるのだろうなぁ。

現代のように、電波が空から降ってきて、何もせずとも家の時間が進んで行く時代では、こういう夫婦関係はなかなかあり難いものなのかもしれないなあと、ちょっと淋しくもなりますね。。。

鈴木卓爾監督は、この作品が長編映画は2作品目となるそうですが、映像を切り取る独特のセンスと言い、まるで演劇の舞台を見ているような演出と言い、素晴らしい手腕だと思います。
これからも注目して身続けなくては。。。

あ、そう言えばこの映画には、ドラマ版「ゲゲゲの女房」に出ていた役者さんも何名か出ているのですが、その起用は当然意図的なものなんですよね？
アシスタントから編集者に出世してたり、妖怪になってたり、役は違えどやっぱり島根の子の役だったり、なんだかちょっと面白かったです。

『ゲゲゲの女房』（119分／日本／2010年）
公開：2010年11月20日
配給：ファントム・フィルム
劇場：ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国にて
原作：武良布枝
監督：鈴木卓爾
音楽・出演：鈴木慶一
出演：吹石一恵／宮藤官九郎／坂井真紀／村上淳／宮崎将／唯野未歩子／夏原遼／平岩紙／柄本佑／寺十吾／徳井優／南果歩
公式HP：http://www.gegege-eiga.com/