J・エドガー / J.Edgar
50年にわたりアメリカの秘密を握り続けた、FBI初代長官のジョン・エドガー・フーバーの半生を描いた映画『J・エドガー』。
クリント・イーストウッド監督は、アメリカ大統領たちすらも恐れた男を、強烈な母の呪縛のもと、本当の自分を偽り“男として”パワーをもつことにこだわり続けた哀しい男として描いています。
自分が最も欲する愛を得られないという心の傷が、彼の承認欲求を肥大化させ、権力欲の方に走ってしまったのでしょうか。。。
タイトルロールのJ・エドガーの20代から77歳までをレオナルド・ディカプリオが演じているのですが、彼の老けメイクには、賛否両論あるかも。
個人的には、ちょっと違和感が拭えず、物語になかなか入り込めませんでした。
<STORY>
1919年、司法長官の家を狙った爆弾テロ事件の捜査で注目されたジョン・エドガー・フーバーは、FBIの前身である司法省捜査局の長官代行となる。そして、FBIの初代長官となった彼は、最先端の科学捜査を導入し、多くの事件を解決に導く。やがて彼は、大統領や政治家の秘密ファイルを作り、強大な権力を持つ存在になっていく。そんな彼を支えたのは、生涯彼の右腕であったクライド・トルソン副長官と秘書のヘレン、そして母親のアニーだった…。
<Cheeseの解説>
この映画の脚本を務めたのは、アメリカ初のゲイの政治家ハーヴェイ・ミルクの生涯を描いた映画『ミルク』(監督:ガス・ヴァン・サント)でアカデミー脚本賞を受賞しているダスティン・ランス・ブラック。
自身もゲイをカミングアウトしている彼は、表立ってはゲイであることを見せなかった男の姿を、繊細で傷つきやすいが故に過剰な攻撃性を持つ、男らしく荒々しい言動で描いています。
物語は、FBI長官在位40年を迎えたJ・エドガーが、自伝を執筆するために、エージェントに自分の経歴を振り返って語るという形で進んでいきます。
社会的に成功を成し遂げた男が語る自分の過去は、栄光に満ちた輝かしいもの。
しかしその輝かしい想い出が、すべて本当のものなのか…。
成功した老人が、自分の人生をいつの間にか想い出補正し、自分がすべて正しく、スーパーヒーローのような存在だと思い込んでいるという事実は、哀しくも滑稽だったりもします。
しかし、得てして人生と言うものは、そういうものなのでしょうね。地位や成功度に関係ないのかもしれません。
そういう意味では、ここで描かれるJ・エドガーは、卑小で、自分勝手で、人間的です。
母の愛に怯え、愛する人が差し出してくれた手を拒み、しかし愛する人を傍に置き続ける男。
J・エドガーの卑小さに対し、傷つきながらも彼を愛し支え続けるクライド・トルソン副長官(アーミー・ハマー)と、J・エドガーの忠実なアシスタントとして使える秘書・ヘレン(ナオミ・ワッツ)の慈母のような眼差しには、何か大きな愛を感じました。
家族からただ受け入れられ、ただ愛されることができなかったJ・エドガーが、仕事を通して手に入れた“自分を大きな愛で包み全肯定してくれる存在”が、トルソン副長官とヘレンだったのかもしれません。
それにしても、J・エドガーの母・アニーを演じたジュディ・デンチは、本当にすごい迫力でした。
オスカー女優の底力というか、名女優の実力を感じさせる夢にでてきそうな眼力でしたね。。。
別コラム:オトコに見せたいこの映画『J・エドガー』
『J・エドガー』(137分/アメリカ/2011年)
原題:J.Edgar
公開:2012年1月28日
配給:ワーナー・ブラザース映画
劇場:丸の内ピカデリーほか全国にて
監督・製作・音楽:クリント・イーストウッド
脚本:ダスティン・ランス・ブラック
出演:レオナルド・ディカプリオ/ナオミ・ワッツ/ジュディ・デンチ/アーミー・ハマー/ジョシュ・ルーカス/デイモン・ヘリマン/ケン・ハワード/エド・ウェストウィック/リー・トンプソン/ジェフリー・ドノヴァン/スティーヴン・ルート/マイルズ・フィッシャー/ジェフ・ピアソン/ダーモット・マローニー
公式HP:http://www.j-edgar.jp
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