3人のアンヌ／ 다른 나라에서

2013/5/12 外国映画数字・記号, 映画レビュー

ホン・サンス監督の新作映画『3人のアンヌ』は、フランス人女優イザベル・ユペールを主人公に迎えた、不思議にキュートな物語。

まったく違う個性を持った、イザベル・ユペール演じる3人のアンヌと、ユ・ジュンサン演じる能天気なライフガードの物語は、ロマンティックなような、どこにでもあるような、まったくどこにもないような、愛すべき物語だと思います。

＜STORY＞
映画を学んでいる学生・ウォンジュは、海辺の街・モハンでの滞在中に、思いつくままにフランス人女性・アンヌを主人公とした3作のシナリオを書き留める。一作の主人公は、韓国を訪れた女流映画監督のアンヌ。もう一作の主人公は、韓国人映画監督と不倫をして海辺の街へやって来た人妻のアンヌ。そしてもう一作の主人公は、夫に浮気され、韓国に傷心旅行にやって来たアンヌ。3人のアンヌは、海辺の街で一人のライフガードに出会う…。

＜Cheeseの解説＞
この映画は、映画を学ぶ韓国人女子大生がシナリオを書き、そのシナリオをそのまま映像化しているていで進んでいきます。
女子大生は三編のシナリオを書くのですが、主人公はどれもアンヌというフランス人女性、舞台はモハンという海辺の街。
そしてその三編すべてに能天気なライフガードが登場し、アンヌとコミュニケーションをとろうとします。

このライフガードが、脳みそが筋肉でできたような、能天気な妙な男。
フランス人女性にカタコトの英語であれやこれや話しかけ、「僕はライフガード。僕があなたを守ります！」と無邪気な笑顔で歌を歌ったりするのです。
この彼のぶれない能天気さが、この映画を横糸として、楽しく彩っているといえるでしょう。

そして、この映画の縦糸となるのが、イザベル・ユペール演じる三人のアンヌ。
さすが大女優のイザベル・ユペール、韓国人の女の子が憧れるような知的フランス人女性映画監督、韓国人の女の子が憧れる恋愛ドラマの主人公のようなフランス人不倫人妻、韓国人女性に夫をとられ敵国・韓国を傷心旅行をかねて視察にくるフランス人バツイチ女性というまったく違う三人のキャラクターを、海辺の街・モハンという同じシチュエーションの中で見事に演じ分けてみせてくれます。

この作品の監督である、ホン・サンス監督の撮影方法は、かなり独特。
まず、撮影する“場所”を決めて、それから“俳優”を決めます。
そして俳優やスタッフたちを現場に集めて、撮影当日に、その日撮影する分のシナリオだけを渡し、撮影していくというスタイル。
監督は俳優たちの演技やクセなどを見つめ、そしてその印象でどんどんストーリーやセリフを変え、進化させながら映画ができあがっていくのだそう。

この映画はまさに、海辺の街にモハンにイザベル・ユペールやユ・ジュンサンら俳優を連れてきて、彼らの化学反応をフィルムに収めたものと言えるでしょう。
韓国人俳優、韓国人スタッフの間に、フランス人女優（しかもベテラン！）が加わったことで、他の作品にはない、不思議なケミストリーが生まれたと言えるでしょう。

これと言ったストーリーの盛り上がりもなく、派手に感情を動かされることもないのですが、なんだか好きにならずにいられない…。
この映画『3人のアンヌ』は、そんなキュートな異色作です。

それにしても、イザベル・ユペール、1953年生まれとは。
どう見ても40代くらいの可憐さ。可愛いすぎるぜ…。

『3人のアンヌ』（89分／韓国／2012年）
原題：다른 나라에서
英題：In Another Country
公開：2013年6月15日
配給：ビターズ・エンド
劇場：
監督・脚本：ホン・サンス
出演：イザベル・ユペール／ユ・ジュンサン／チョン・ユミ／ムン・ソリ／ムン・ソングン／ユン・ヨジュン／クォン・ヘヒョ
公式HP：http://bitters.co.jp/3anne/