【映画レビュー】フォックスキャッチャー / Foxcatcher
人の心とはげに恐ろしきもの。。。
1996年に実際に起こったある殺人事件を、ベネット・ミラー監督が映画化した『フォックスキャッチャー』。
沈黙とわずかな物音が心をざわつかせる緊迫感あふれる演出で、ベネット・ミラー監督はカンヌ映画祭最優秀監督賞を受賞しました。
それぞれ、これまでのイメージを覆すような主演俳優たち、スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロの演技も素晴らしく、人の心や人間関係の複雑さを、観る者につきつけてくる物語です。
<STORY>
1984年のロス五輪のレスリング金メダリスト、マーク・シュルツのもとに、ジョン・デュポンという大富豪から連絡があった。彼が作るレスリング・チーム“フォックスキャッチャー”で、再び金メダルを目指そうと言うのだ。マークは共に金メダルを取った兄のデイヴも誘うが、家族のいるデイヴは転居が必要となる誘いを受けない。デイヴのみが“フォックスキャッチャー”に入るが、デュポンは不満をのぞかせる。ともかく、二人はチームを作動させ、練習を始めるのだが…。
<解説>
1996年に起きた殺人事件を映画化した本作。
大富豪のジョン・デュポンをスティーヴ・カレルが、ロサンゼルス・オリンピックにてレスリングで金メダルを獲得した兄弟デイヴ&マーク・シュルツをマーク・ラファロとチャニング・テイタムが演じています。
ジョン・デュポンは、デュポン財閥に生まれ、莫大な財産を持つ男。
“金で買えないものはない”彼は、趣味のレスリングで栄誉を得ようと、自分の土地の名を冠した“フォックスキャッチャー”というレスリング・チームを作り、金メダリストのシュルツ兄弟を呼びよせようとします。
しかし、自分が大好きなレスリングを母から下等な趣味のように扱われ、腹を立て、母に認めてもらいたいと思っているのです。
デイヴは、誰もが尊敬するレスラー。
レスリング界で大きな尊敬を得て、愛する妻、二人のかわいい子どもたちもいます。
幼い頃両親に死に別れたマークは、デイヴに支えられて生きてきました。
兄とともにレスリングをし、金メダルも得たものの、どうしても兄を超えられずにいます。
兄をとても愛してはいるものの、偉大過ぎる兄にコンプレックスを感じ、兄から離れたいとも思っています。
そんな三人が、フォックスキャッチャーという場所で出会います。
“フォックスキャッチャー”とは、昔狐狩りが行われていた場所。
猟犬たちが、狩りの獲物である狐たちを追いつめ、追い込んでいた場所とも言えます。
母を愛し、母に、そして世間から認められ、賞賛されたいと思っていたジョン・デュポン。
兄を愛し、兄を疎ましく思い、兄を超えたいと思っていたマーク・シュルツ。
デイヴ・シュルツは、そんな二人が欲しいものをすべて兼ね備えた人間でした。賞賛、承認、愛、家族…。
そんな三人の運命が“フォックスキャッチャー”で絡み合い、恐ろしいドラマを形作っていきます。
共依存のようだった彼らの関係は、ジョン・デュポンの母の死や、大きな目標だったソウル・オリンピックなどを経て、臨界点に近付いていくのです。
ベネット・ミラー監督は、この臨界点までの彼らの道程を、静かに丁寧に描いていきます。
どこかで引き返せる道はあったはずなのに、そこで彼らは引き返しませんでした。
誰が狐で誰が猟犬だったのか…。それは、誰にもわからないのかもしれません。
それにしても、ジョン・デュポンを演じたスティーヴ・カレルの演技は圧巻の一言です。
感情を表に表さないようでいて、常に激しいコンプレックスや怒りが感じられるような表情。
もの静かなようでいて、突然激高する感情表現。
一見まともなように見えつつ、どこかポイントのずれた会話。
彼の見せるすべての動きや言葉が、彼の最後の行動へとつながる導火線のようなのです。
これがあの『40歳の童貞男』と同一人物とは、とても思えない。。。
魅力的な笑顔を封印した、チャニング・テイタムの、口もうまくまわらず、感情表現や人間関係も下手、レスリングしか自慢できるものがない不器用な大男ぶりもいいのですが、スティーヴ・カレルのあの演技の前では、ちょっとかすんでしまいましたね。。。
『フォックスキャッチャー』(135分/アメリカ/2014年)
原題:Foxcatcher
公開:2015年2月14日
配給:ロングライド
劇場:新宿ピカデリーほか全国にて
監督:ベネット・ミラー
脚本:E・マックス・フライ/ダン・ファターマン
音楽:ロブ・シモンセン
出演:スティーヴ・カレル/チャニング・テイタム/マーク・ラファロ/シエナ・ミラー/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/アンソニー・マイケル・ホール/ガイ・ボイド/ブラット・ライス/ジャクソン・フレイザー/サマラ・リー/フランシス・J・マーシー三世
Official Website:http://www.foxcatcher-movie.jp/
KADOKAWA / 角川書店 (2016-11-25T00:00:01Z)
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