【映画レビュー】くちびるに歌を
映画『書道ガールズ』などでも印象的に使われていたアンジェラ・アキの名曲「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」。
この曲を重要なキーアイテムとして、15歳の少年少女の抱える悩み、大人になった30歳の女性の葛藤と成長を描いたのが、映画『くちびるに歌を』です。
なんというか…、観終わった後、心が洗われたような気分になりました。
直球勝負で純粋な気持ちを思い出させてくれるようなこの映画、宝物のように心の奥にそっとしまっておきたい一作です。
<STORY>
長崎県の五島列島にある中五島中学校の生徒たちは、臨時の音楽教師としてやって来た美人ピアニストの柏木ユリに大興奮。しかし、柏木はそっけなく、やる気もなさげだった。そんな柏木が担当することになった合唱部には、男子生徒の入部希望が殺到。合唱部の部長・仲村ナズナは、柏木を好きになれないでいた。しかし、ナズナたちが全国大会出場を目指す合唱コンクールの予選は目前に迫っている。ナズナたちは柏木にピアノの伴奏を頼むが、柏木は頑にピアノを弾こうとしなかった…。
<解説>
乙一の名前でも活躍している中田永一の同名原作小説を、三木孝浩監督が映画化した本作。
三木監督と言えば、『ホットロード』、『アオハライド』など、キュンキュンさせる青春ラブストーリー映画の名手。
その三木監督が、ラブストーリーではなく、初めて挑んだ人間ドラマです。
三木監督、この原作小説を読んで惚れ込み、映画化決定以前に自らシナリオ・ハンティングに出かけたそう。
その意気込みは見事に作品に反映されていて、五島列島の美しい自然や、人びとが日常的に通う教会、地元の人々が働く水産会社など、つくりものではない、五島列島の人びとの日常が、美しく切り取られています。
この映画、主人公は新垣結衣演じる柏木ユリということになっていますが、観客の心に残るのは、恒松祐里、下田翔大、葵わかならが演じる中学生たちの演技でしょう。
15歳という年齢は、身体は大人になりつつあるけれども、心はまだ子どものまま。
さらに、田舎の中学生の世間は狭く、それこそ学校と家だけが大きな比重を占めています。
彼らにとって、“家”、“家族”の問題と言うのは、大人が想像するよりもずっと大きな問題。
そんな中で、大切な友だちもいるし、大好きな合唱という趣味はあるけれども、家族のことが好きではあるけれど、家族のことで真剣に悩んでもいる…。
そんな彼ら一人一人が、悩みを抱えつつも、仲間や先生のことを思い、心を一つにして合唱に打ち込む様子は、やはり感動的です。
最初は嫌々だったものの、そんな彼らと接するうちに自分の過去にも向き合えるようになる主人公のユリは、大人の観客の代表のような存在なのかもしれません。
子どもたちのひたむきさが、大人の心を溶かしていくのです。
まあ、いくら田舎だからって、子どもたちがみんなこんなに純情だったりいい子だったりするわけがないんじゃないか、などとのツッコミもあるかもしれませんが、そんな汚れた心は捨てて、子どもたちの澄んだ歌声に耳を傾けて欲しいと思います。
きっと、自分が15歳だった頃の心を思い出し、少しほろ苦いながらも、さわやかな気分になれるのではないかと思います。
『くちびるに歌を』(132分/日本/2015年)
公開:2015年2月28日
配給:アスミック・エース
劇場:全国にて
原作:中田永一
監督:三木孝浩
脚本:持地佑季子/登米裕一
主題歌:アンジェラ・アキ「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」
出演:新垣結衣/木村文乃/桐谷健太/恒松祐里/下田翔大/葵わかな/柴田杏花/山口まゆ/佐野勇斗/室井響/三浦翔哉/朝倉ふゆな/植田日向/高橋奈々/春井ルミ/渡辺大知/眞島秀和/石田ひかり/木村多江/小木茂光/角替和枝/井川比佐志/野間口徹
声の出演:鈴木亮平
Official Website:http://kuchibiru.jp/
小学館 (2013-12-06)
売り上げランキング: 5,750
売り上げランキング: 2,662
売り上げランキング: 9,854
売り上げランキング: 22,739
売り上げランキング: 52,928
売り上げランキング: 88,266