【映画レビュー】百合子、ダスヴィダーニヤ

大正・昭和の時代に活躍した女流文学者、宮本百合子(旧姓・中條)と、その愛人であったロシア文学研究者・湯浅芳子
同性ながらに愛し合っていたこの二人の女性の、愛の始まりを描いた映画『百合子、ダスヴィダーニヤ』

不勉強で恥ずかしいのですが、私はこの二人の著作等を読んだことがなかったので、この映画で初めて二人の愛情関係を知りました。
昔の有閑階級、殊に文学を生業とするような人びとの情熱的な愛情関係は、現在とはまた違ったものがあって、かなり興味深いですね。
進歩的な思想を持つ人びとたちの、言葉や精神性で自分の愛を定義しようとする姿勢にも、現在にはない志を感じます。

<STORY>
大正13年、婦人雑誌の編集者・湯浅芳子は、作家・野上弥生子の紹介で、17歳で小説家としてデビューし天才少女と騒がれた女性作家・中條百合子と出会う。百合子は19歳の時に、アメリカで出会った15歳年上の研究者・荒木と結婚していたが、今では結婚生活も破綻していた。芳子と百合子は意気投合し、百合子の父親の生家のある福島県の安積・開成山で時を過ごす。芳子はやがて百合子を愛すようになり、百合子も芳子の愛に応えていった…。

<解説>
この作品で中條百合子(宮本百合子)を演じているのは、一十三十一(ひとみとい)というシンガーソングライター。
独特なセリフ回しで、けっして演技もうまいわけではないのですが、その分、百合子の持つ“他者とは違う感じ”を感じさせる向きもあります。

そして、湯浅芳子を演じるのは、『ハッピーエンド』などに出演していた菜葉菜
男物の着物を着て、大正時代風の男言葉でしゃべる役は難しかったのでしょう、やはりなんだか違和感を感じさせました。

そんな二人がメインなせいか、百合子と芳子のやりとりは、会話が浮いている感じがして、どうしてもこなれていない感じが否めませんでした。
そのせいで、逆にセリフがすっと流れていかず、耳に残る部分もあるので、このぎこちなさが監督の狙いでもあるのかもしれませんが。。。

逆に、百合子の15歳年上の夫を演じた大杉漣の演技は、そのこなれ感がすごかったです。
自分から離れていこうとする若い妻を必死でおいかける中年男の悲哀を、ものすごく滑稽に演じています。
“アメリカに長年留学していて、英語が堪能”という設定にも関わらず、発音がすごく日本式なのも、何か狙いがあるのかもしれません。

百合子の見せる“愛される者の傲慢さ”、夫や芳子の見せる“愛する者の必死さ”は、“愛情”というものの難しさを感じさせるものだと思います。

『百合子、ダスヴィダーニヤ』(102分/日本/2011年)
英題:YOSHIKO & YURIKO
公開:2011年10月22日
配給:旦々舎
劇場:ユーロスペースにて
原作:沢部ひとみ「百合子、ダスヴィダーニヤ」宮本百合子「伸子」「二つの庭」
監督:浜野佐知
出演:菜葉菜一十三十一大杉漣吉行和子大方斐紗子洞口依子/麻生花帆/平野忠彦
公式HP:http://yycompany.net/

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