わが母の記
井上靖の自伝的小説を原田眞人監督が丁寧に映画化したこの物語『わが母の記』。
認知症の母親を見守る家族の姿を、ウェットにより過ぎることもなく、少し突き放した視点から描いています。
懐かしい日本家屋や美しい自然、家族の細やかな感情の襞を丁寧に描き出している、美しい映画です。
<STORY>
1959年、作家・伊上洪作の父が亡くなった。洪作の母・八重は洪作の妹が面倒を見ることに。しかし、八重には認知症の症状が出始めていた。そんな八重を、生意気な洪作の三女・琴子が丁寧に世話をするようになる。やがて八重は、夫の記憶すらもなくしていく。幼い頃母親に捨てられたという思いを持って生きてきた洪作は、そんな八重にショックを受ける…。八重は洪作のこともわからなくなり、憎らしい嫌みや恨み言などを言い始めるが…。
<Cheeseの解説>
『悪人』の祖母役やCMでの祖母役など、最近すっかり“おばあちゃん女優”のイメージが根付いている樹木希林。
本作でも、役所広司演じる作家・伊上洪作の認知症になった母・八重を演じています。
八重は夫の死後、息子や娘の世話になりながら暮らしているうち、だんだんと認知症の症状が重くなっていきます。
この樹木希林の認知症の演技が、素晴らしいのです。
本来の感情をそのままむき出しにした憎らしい感じとか、驚くほど素直になった可愛らしい感じとか、子どもに返ったような素直な感情を自由自在に見せてくれています。
孫の琴子を演じる宮崎あおいや、娘を演じる南果歩やキムラ緑子ら名女優たちが、樹木希林の奔放な演技を受け、彼女に対し怒ったり笑ったり、見事に振り回されて見せるのでした。
この作品は、認知症の母に対する主人公たちの感情を、ありのままに描いています。
憎んだり、腹が立ったり、でもしょうがなく世話をするしかなかったり、やっぱり肉親としての愛を感じたり…。
きれいごとだけを描くのではなく、複雑な負の感情や、一瞬の怒りの爆発なども丁寧に描いていることが、リアリティや深みを感じさせるのでしょう。
“偉大な母の愛”をただ讃えるのではなく、母も子も人であり、その関係には愛もあり憎しみもあるということをありのままに描くその姿勢に、感動を覚えました。
別コラム:オトコに見せたいこの映画『わが母の記』
『わが母の記』(113分/日本/2011年)
英題:Chronicle of My Mother
公開:2012年4月28日
配給:松竹
劇場:全国にて
原作:井上靖
監督・脚本・編集:原田眞人
出演:役所広司/樹木希林/宮崎あおい/三國連太郎/南果歩/キムラ緑子/ミムラ/菊池亜希子/三浦貴大/真野恵里菜/赤間麻里子
公式HP:http://www.wagahaha.jp/
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