【映画レビュー】戦場でワルツを / VALS IM BASHIR
2009年度の第81回アカデミー賞外国語映画賞部門で、『おくりびと』と受賞を争ったアニメーション映画『戦場でワルツを』。
一兵卒として戦争に参加していた男の、個人的な記憶をたどるドキュメンタリーです。
戦争という体験が、いかに人間の心に大きな痕跡を残すのか…。
戦場に立つ兵士、一人ひとりが、みんな、大きなドラマを持っていて、そしてそのドラマはほとんどが語られずに(戦死した人は、語ることもできないのです)しまいこまれている…。
そんなことを実感させられる作品でした。
STORY
映画監督のアリは、友人のボアズから「26匹の犬が自分を殺しに来る夢を見る」という相談を受ける。彼曰く、それは20年前のレバノン内戦で彼が殺した犬たちだという。同じ内戦に従軍していたアリは、自分にはその戦争の記憶がないことに気付く。ある日、レバノン内戦のサブラ・シャティーラの虐殺の日の記憶を思い出すが、それは偽りの記憶だった。彼は、自分のその日の行動を知ろうと、当時を知る人たちにインタビューを始める。
解説
この物語の主人公は、20年前にイスラエル軍の兵士としてレバノン内戦に従軍した男性です。
現在は映画監督となった彼が、自身の記憶をめぐる過程を、ドキュメンタリーとしてアニメ化したのです。
その映像は、独特の色彩で描かれており、どこか非・現実的。
彼の戦争に対する“現実感のなさ”がそのまま映像で表現されています。
この映像が、最後には実写になるのですが、その時、衝撃的な映像が、“事実”として私たちの心に突き刺さります。
主人公の男性には、歴史的事実としての1982年にパレスチナ難民キャンプで3000人が命を落としたサブラ・シャティーラの虐殺の“知識”はあっても、その“記憶”がありません。
その戦争には確かに参加し、少なくとも近くにはいたはずなのに。
彼は記憶を取り戻すために、かつての戦友や戦争ジャーナリストたちにインタビューを重ねます。
その際に語られる戦争の“記憶”は、どれもドラマチックですさまじいものばかり。
戦争に参加し、死線を越えるということは、それだけ劇的な出来事なのでしょう。
「戦車の上に乗り出して歌を歌っていたら、隣で歌っていた友人がいきなり撃たれて倒れた」
こんなことは、戦時下でなければ、なかなか起こりません。
しかも、戦車のスピードや、風向きなど、ちょっと要素が変わったら、死ぬのは自分だったかもしれないのです。
そんな毎日の死への恐怖が、彼らの“記憶”を少しずつ変形させ、記憶の表面から消し去ってしまったのでしょう。
不勉強でお恥ずかしいのですが、私はこのレバノン内戦、サブラ・シャティーラの虐殺の実態をよく知りません。
どういう歴史的経緯で、どういう主張のもとに行われた行為なのか、ウィキペディアや公式ブログに紹介されている以上の知識はありません。
なので、この映画の中で行われた虐殺について、語る言葉を持ちません。
けれど、こういう映画を観て、戦争が一人の人間の心にどんな影響を与えることがあるのか、それは少しだけ、理解できました。
虐殺の被害者だけではなく、加害者や傍観者たちの心にも、戦争は、大きな傷跡を残す…。
今の平和な日本でのんきに生きている私にできることは、戦争が人に与える影響を少しでも理解し、そしてこの作品を、少しでも多くの人に勧めることなのかなあと、そんな風に思ったのでした。
うーん、すいません、平和ボケで。。。
作品情報
『戦場でワルツを』(90分/イスラエル=フランス=ドイツ=アメリカ/2008年)
原題:VALS IM BASHIR
英題:WALTZ WITH BASHIR
公開:2009年11月28日
配給:ツイン、博報堂DYメディアパートナーズ
劇場:シネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開
製作・監督・脚本・出演:アリ・フォルマン
公式HP:http://www.waltz-wo.jp/
公式ブログ:http://senjowaltz.exblog.jp/
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