【映画レビュー】海辺の家族たち / La Villa
いつまでも変わることがないように思える、故郷。
この映画『海辺の家族たち』は、そんな故郷の海辺の町に久しぶりに集まった兄妹、そして家族の物語です。
『マルセイユの恋』や『キリマンジャロの雪』などで知られ、カンヌ国際映画祭など、多くの国際映画祭で評価を得ているマルセイユ出身の映画監督ロベール・ゲディギャン。
マルセイユ周辺を舞台に、労働者階級や移民など、社会的弱者の物語を描き続けてきた彼が、自身の妻でもある女優・アリアンヌ・アスカリッドを主演に迎えて描いた、ゲディギャン監督の集大成とも言える本作。ゲディギャン作品の常連俳優たちも参加しています。
家族が家族を呼ぶ声が、奇跡を起こす……。
それぞれの家族の声が、観る人の心によみがえるような、そんな家族の物語でした。
<STORY>
老父が倒れた。そのニュースを聞き、フランスの人気女優・アンジェルは、20年ぶりに故郷のマルセイユ近郊の海辺の町へと帰郷する。家には、家業のレストランを継いだ長男のアルマンと、リストラにあったうえに年若い婚約者にも捨てられそうな次男・ジョゼフが待っていた。父は意識はあるが、コミュニケーションが取れない状態。久しぶりに再開した兄妹たちはぎこちない日々を過ごす。そんななか、入り江に難民の船が漂着し……。
<解説>
この映画の舞台になっているのは、南仏のマルセイユにある田舎町。
両親の営んでいたレストランはさびれていました。
リゾート開発が進み、近隣に住む人々の多くは土地や家を売って町を離れてしまいました。
残されたのは、アンジェルの父親と長男のアルマン、そして老いたマルタン夫妻。
彼らは町が変わっていくのに耐えられずに、だまって変化に対抗していました。
そんな故郷の街に久しぶりに訪れた女優・アンジェルは、倒れて意思疎通ができなくなった父と、20年ぶりに再会します。
20年前に起こったある出来事のせいで、彼女と父親の間には、大きな溝がありました。
その溝が、二人の兄とも彼女を遠ざけていたのです。
しかし20年がたち、それぞれに歳をとった家族の関係は、変化せざるを得なくなっていくのです。
そんな時、入り江に難民の船がたどり着きます。
テロの可能性もあると警察が警戒を強めるなか、アンジェルら家族たちの前に姿を現したのは、かわいいジャム泥棒でした……。
何十年も家族を続けてくると、さまざまなドラマや事件も起こり、その関係性も変化していくもの。
何もかもなくしたと思っていても、自分が何かの礎になったり、人の未来を助けることはできるのです。
どんな過去があったとしても、未来のどこかには奇跡が隠れていて、少しの変化が希望につながっていく……。
そんな監督からのメッセージが感じられました。
本作の監督を務めたロベール・ゲディギャンは、長年、マルセイユの近郊を舞台に、妻のアリアンヌ・アスカリッドをはじめとする常連俳優たちを起用して映画を作り続けてきた監督。
本作には、そんなゲディギャン作品ならではの仕掛けが施されています。
劇中で、若かりし頃の父親と、アンジェル、アルマン、ジョゼフの4人が車に乗って海辺へ訪れ、ふざけて海に落としあうシーンがあります。
実はこのシーン、1986年のゲディギャン監督の映画『Ki lo sa?』の中のシーンだそう。
同じ地域で、同じ俳優たちを起用して映画を作り続けてきた監督だからこそできた、家族の歴史を感じさせる1シーンでした。
『海辺の家族たち』(107分/フランス/2016年)
原題:La Villa
英題:The House by the Sea
公開:2021年5月14日
配給:キノシネマ
劇場:キノシネマみなとみらい、キノシネマ立川高島屋S.C.館ほか全国にて順次公開
製作・監督・脚本:ロベール・ゲディギャン
脚本:セルジュ・ヴァレッティ
出演:アリアンヌ・アスカリッド/ジャン=ピエール・ダルッサン/ジェラール・メイラン/ジャック・ブーデ/アナイス・ドゥムースティエ/ロバンソン・ステヴナン/ヤン・トリゴー/ジュヌヴィエーヴ・ムニク/フレッド・ユリス/ディオク・コマ
Official Website:https://movie.kinocinema.jp/works/lavilla/
¥5,250
紀伊國屋書店 (2013-02-22)
¥843