スープ・オペラ
ゆっくり煮込んだおいしい手作りスープの乗った食卓を囲んで、60代男性・30代女性・20代男性が疑似家族を形成していく映画『スープ・オペラ』。
時代を超越したような古めかしい家のゆっくりした雰囲気や、シンプルでおいしそうなお料理たち、つつましい登場人物たちの生活ぶりなど、「ああ、ああいう雰囲気の映画が作りたかったんだろうな…」というのがよくわかります。
『かもめ食堂』にエミール・クストリッツァ風味をまぶした感じ?
でもなぁ…。なんだか、いろいろなところが、惜しい。
主演の坂井真紀や、藤竜也 演じるトニーさんの佇まい、美術に料理に衣装に、それぞれはみんな素敵なんですけどねぇ。
うーん、なんだろう。
鶏ガラからとった美味しいスープなんだけど、塩味が足りないというか…。
いや、もしかすると、添加物の多いスープを飲みなれた身に、このシンプルさが物足りないだけなのかもしれませんが…。
<STORY>
35歳の独身女性・ルイは、叔母のトバちゃんと二人暮らし。だがある日、トバちゃんが結婚して家を出ていくことに。ルイは一人暮らしを始めるが、ある日庭を見ると、初老の画家・トニーさんが庭の絵を描いていた。ふたりはなんとなく仲良くなる。ある日、ルイが仕事から家に帰ると、前日知り合ったばかりの康介という青年とトニーさんが、仲良くお茶を飲んでいた。そして、なぜかその二人はルイの家に同居することとなる…。
<Cheeseの解説>
古いけれども手入れの行きとどいた家。
華美ではないけれども、身の丈にぴったりで清潔なお洋服。
鶏ガラからしっかり出汁をとった、健康的でおいしいスープ。
この映画には、そんな“まっとうな暮らし”が詰まっています。
でも、暮らしぶりはまっとうなんだけれど、何かが欠落しています。
それは、何かというと、“家族”の存在。
私個人的には、「家族を形成するのが人間。人はひとりでは生きていけないんだから、家族が何より大事なのよ」というような意見には決して賛同できませんが、家族というものの存在が、良きにつけ悪しきにつけ、人の人生の中で重要なテーマとなりうることは、よくわかります。
ルイは父親が誰かもわからず、母親とも幼くして死別し、伯母に育てられた女性。
35歳になるまで独身で、伯母とふたりで暮らして来ました。
手取り13万円で、大学の図書館で働いています。
そんなルイと一緒に暮らし始めるトニーさんは、3度目の離婚の危機にある初老の男性。
エキセントリックな妻はいるけれど、真面目な対話を避け、何かことが起こるとアロハシャツと画材の詰まったトランクを持ってその場から逃げ出してしまう…。そんな、フーテンオジさんです。
そして、もう一人、ルイと同居することになる、康介。
出版社でアルバイトをしているけれどクビ寸前、彼女はいるけれどセックスはしたことがない、いつも笑顔の青年です。
そんな三人が疑似家族のようにひとつ家で暮らし始めます。
でも、“疑似家族”の間にも、一緒に暮らしていると、本当の家族のような心のぶつかり合いが起き始めるんですね。
三人の関係性は、微妙に揺れ始めてゆくのです。
疑似家族は本当の家族になれるのか?
いや、そもそも家族になる必要があるのか?
家族がなくても美味しいスープさえあれば、ひとまず生きてはいけるのか?
そんなことを、心地よーくゆるーい感じで考えさせてくれる一作でした。
でもまあ、最後に声を大にして言いたいことがひとつ。
「ダンスシーンがあるのなら、役者陣はもうちょっと練習してから撮影に臨んで欲しい!!」
夕闇の中で浮かび上がる、遊園地の素朴にきらめく光の中でのダンスという、ファンタジックで美しいシーンなのに、ダンスのぎごちなさがどうしても気になっちゃって…。
せっかくいいシーンなのに、もったいないなぁと思ってしまいました。
『スープ・オペラ』(119分/日本/2010年)
公開:2010年10月2日
配給:プレノンアッシュ
劇場:シネスイッチ銀座、新宿ピカデリーほか全国にて
原作:阿川佐和子
監督:瀧本智行
出演:坂井真紀/西島隆弘/藤竜也 /加賀まりこ/平泉成/萩原聖人/鈴木砂羽/余貴美子
公式HP:http://www.soup-opera.jp/
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