【映画レビュー】銀の匙 Silver Spoon
アニメ化もされている荒川弘の同名人気コミックスをSexy Zoneの中島健人主演で映画化した本作『銀の匙 Silver Spoon』。
『ばしゃ馬さんとビッグマウス』、『純喫茶磯辺』などの吉田恵輔監督が手がけたこの作品、なんとも爽やかな青春物語です。
“酪農”、“畜産”、“北海道”という、傍から見ると牧歌的でのどかに見える世界にある過酷な現実を描きつつ、そんな過酷な世界の中でも現実を打破して突破して行こうとする若者の葛藤と成長を真っ正面からとらえたこの作品。
もしかすると、酪農の現実を知っている人から見ると、理想的に過ぎるのかもしれません。
しかし、過酷な現実をそのまま描き苦しむ人間の姿にドラマを見つけるのも映画の一つの側面ですが、過酷な現実の中にも光を見つけ人びとに希望を与えるというのも、また映画の大事な役割の一つ。
そう言った意味で、この作品は正しい青春映画、正しいアイドル映画なのだと思います。
<STORY>
中学受験をして札幌の進学校に通っていた八軒勇吾は、落ちこぼれて全寮制の大蝦夷農業高校、通称エゾノーの酪農科学科に進学する。酪農や畜産を営む家庭の子どもが多いエゾノーは、サラリーマン家庭に育った勇吾には慣れないことばかり。ばんえい競馬が好きな同級生の御影アキや、アキの幼なじみで牧場の息子の駒場一郎など、だんだんと友だちはできるが、“豚丼”と名付けた可愛い子ブタや牛たちを“経済動物”と割り切ることが出来ずにいた。
<解説>
この映画は、中島健人演じる主人公の八軒勇吾が、エゾノーこと大蝦夷農業高校という全寮制の農業高校の酪農科学科に進学するところから始まります。
サラリーマン家庭で育ち、札幌の進学校に通っていた彼は、勉強についていけなくなり、落ちこぼれて農業高校に逃げてきた若者。
酪農について何も知らない八軒くんは、酪農について何も予備知識を持たない映画の観客たちと同じ立場。
彼が酪農の世界で体験し、驚いたり戸惑ったりすることのひとつひとつが、観客たちに酪農の疑似体験を与えてくれるのです。
対して、エゾノーで出会うクラスメイトたちのみんなは、酪農や畜産に営む家庭に生まれた子がほとんど。
彼らがみな、八軒くんに酪農のいろはや農業の厳しさを教えます。
牛や豚、鳥は可愛いペットではなく、経済動物であること。
我々が普段口にする食肉は、経済動物を殺したものであること。
経済動物にも命があり、その命の世話は重労働であること。
そんなことを、八軒くんは身を以て体験し、様々な感情を覚えながらも納得していくのです。
身体と感情、頭、すべてをフルに使いながら彼は成長して行きます。
そして、地方の酪農農家が直面している厳しい現実を知り、どうにもできない自分の無力さを知りながらも、自分の感情を納得させるため、友だちのため、自分のできる精一杯のことをし、“できること”を少しでも大きくしていく…。
彼のように酪農の厳しさが幼い頃から身にしみていない人間だからこそできる、常識はずれの新たな試みが、エゾノーや酪農業界に、やがてイノベーションを起こしていくのかもしれない、そんな風に思わせてくれます。
挫折を経験し、楽そうな世界に逃げ込んで来た少年が、新たな厳しい現実に直面しつつも、仲間達との友情を育み、新しい世界を変えて行くきっかけをつくっていくこの映画、『銀の匙 Silver Spoon』。
広瀬アリスや市川知宏といった若い俳優たちのひたむきな演技も見応えありで、主演の中島健人と共に、物語を盛り上げています。
が、しかし、個人的に「やられた!」と思ったのは、南九条あやめという勘違いお嬢様を演じた黒木華。
出番は多くないのですが、「チョイチョイチョイ~!」という掛け声とともに、すべてを持って行ってしまいます。
なんだか、彼女にはジェニファー・ローレンスに通じる面白さを感じるなあ。
決してすごい美人ではないけれど、彼女の存在感だけで、観客の目を惹き付ける吸引力のある女優さんだと思います。
『銀の匙 Silver Spoon』(111分/日本/2014年)
公開:2014年3月7日
配給:東宝
劇場:全国にて
原作:荒川弘
監督・脚本:吉田恵輔
脚本:高田亮
出演:中島健人/広瀬アリス/市川知宏/黒木華/上島竜兵/吹石一恵/西田尚美/吹越満/哀川翔/竹内力/石橋蓮司/中村獅童/安田カナ
公式HP:http://www.ginsaji-movie.com/
売り上げランキング: 36,161
小学館 (2014-02-20)
売り上げランキング: 6,810
小学館
売り上げランキング: 4,005
小学館
売り上げランキング: 41,965
売り上げランキング: 4,389