しあわせの雨傘 / Potiche
カトリーヌ・ドヌーヴがチャーミングなフランスのブルジョア・マダムを演じている映画『しあわせの雨傘』。
可愛くきれいなだけの壊れやすい飾り壺だと思っていたら、実は美しいけれどちょっとやそっとでは壊れない、実用的な壺だった…。
華やかな笑顔の下に図太さとしたたかさをしれっと隠す女性と、女性のピンクのひらひらドレスと優雅な笑顔にころっとだまされる男性。
そんな男と女の駆け引きを、フランソワ・オゾン監督はちょっと皮肉な目で眺めつつ、愛をもって描いています。
<STORY>
スザンヌは雨傘工場を経営する夫と暮らし、ジョギングと詩を趣味とするブルジョア婦人。優雅な日々を送っていたスザンヌだが、ある日夫が心臓発作で倒れてしまい、夫の代わりに社長業をすることになった。最初は反発していた従業員たちも、だんだんとスザンヌに心を開き、会社も利益をあげ始める。しかし、スザンヌが仕事の楽しさに目覚め、新しいプロジェクトを始めた頃、夫が復帰してくる。スザンヌは仕事を続けたかったのだが…。
<Cheeseの解説>
この作品の原題「Potiche」とは「棚や暖炉の上に飾られる、贅沢で豪華だが実用性のない花瓶や壺のこと。転じて、美しいが夫の陰に隠れ、自分のアイデンティティーを持たない女性に対して軽蔑的に用いられる。」ということだそうです。
ドヌーヴの演じるスザンヌは、正しくそんな女性でした。彼が病に倒れるまでは。
彼女の能力と魅力は、物語序盤から発揮されます。
労働環境の改善を求める工場労働者たちに、夫が社内に監禁された際に、彼女はかつての知人で今は市長を務めている共産主義者・ババンに協力を仰ぎ、夫を助け出します。
この映画の舞台である1970年代に、ブルジョアに共産主義者が協力するなんて、通常ではありえないこと。
にもかかわらず、ババンはしぶしぶスザンヌに協力し、焼けぼっくいに火が点いちゃったりするのです。
そして、夫が心臓発作で倒れ、彼女の能力は本格的に発揮されるようになります。
夫には「お前はただ家にいればいいんだ」と家事すらも禁じられ、娘からは「ママは飾り壺よ。私はママみたいにはなりたくない」と軽んじらていたスザンヌ。
でも、社長業を引き継いで、彼女は持っていた才能を開花させるのです。
彼女の持つ女性らしい気遣いはブルジョアを憎んでいるはずの労働者階級の部下たちの心を溶かし、部下たちをやる気にさせます。
更に、彼女の持つクリエイティビティは、雨傘工場で作っていた製品を実用一辺倒のものからファッショナブルな製品に変えて行きます。
当然、彼女を“飾り壺”と思っていた夫は面白くない。
妻を卑怯な手で追い落とし、自分が社長の座に返り咲こうとするのですが…。
この作品、なんと言ってもいざという時に腹を決めた女性の強さを実感させてくれます。
演じるカトリーヌ・ドヌーヴの、なんて安定感のあること。
舞台が1970年代、まだそんなに女性が社会進出していなかった時代だからこそ、その輝きがいっそう引き立っているのかもしれません。
それに引き換え、彼女に翻弄される男性たちは情けないったらありません。
夫役のファブリス・ルキーニも、ババン役のジェラール・ドパルデューも、タイプは違っていますが、ホントにダメダメな感じ。それまでは威張ってたのにね。
まあ、そこが可愛いといえば可愛いというか、どこか許してあげたくもなるのですが。。。
1970年代フランスののどかな風景の中で、クラシカルな衣装に身を包み、優雅に繰り広げられるこの物語。
フランソワ・オゾン監督がプロジェクトが開始してすぐに彼女に声をかけ、脚本やキャスティングまで彼女が携わったということからもわかる通り、正しくカトリーヌ・ドヌーヴあってこその作品だなあと感じます。
スザンヌのキャラクターは、彼女が元から持つ美しさと優雅さ、可愛らしさ、そして年齢を積み重ねた故の安定感と肝の太さがあってこそのものだと思います。
それにしても、若い頃はその美貌と財力をフルに活用して奔放に楽しく生きて、年齢を重ねてからは社会に参加して“フランスの母”として生きるというのは、女性の生き方として理想的なのではないでしょうか。
いやー、憧れます。
『しあわせの雨傘』(103分/フランス/2010年)
原題:Potiche
公開:2011年1月8日
配給:ギャガ
劇場:新宿ピカデリーほか全国にて順次公開
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ジェラール・ドパルデュー/ファブリス・ルキーニ/カリン・ヴィアール/ジュディット・ゴドレーシュ/ジェレミー・レニエ
公式HP:http://amagasa.gaga.ne.jp
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