【映画レビュー】スターシップ9 / Órbita 9
1976年生まれの若手監督・アテム・クライチェが手がけた映画『スターシップ9』は、美しい“Grounded Sci-Fi”ムービー。
宇宙船の中でたった一人で誰とも会わずに生きてきた女性・エレナと、彼女を救おうとすることで自分も救われていくエンジニアの青年・アレックス。
近未来の地球で、人類を救うための“オービター計画”というプロジェクトの犠牲となった二人のラブストーリーを美しくも切なく描いています。
<STORY>
幼い頃に両親とともに星間移動の宇宙船に乗り込んだエレナは、両親の死後たった一人で宇宙船で旅を続けていた。そんなある日、宇宙船のメンテナンスのためにエンジニアのアレックスがやってくる。両親以外の人間と初めて会ったエレナは、アレックスに惹かれていく。アレックスもエレナに心を奪われ、一度船を降りたが再び宇宙船に戻ってくる。戸惑うエレナをアレックスは外の世界に連れ出すが、そこに広がっていたのは宇宙ではなく…。
<解説>
この映画の舞台は、近未来の地球。
そこでは、死にかけた地球を救うため、“オービター計画”というプロジェクトが行われています。
それは星間移動のシュミュレーションをするための、いわば人体実験。
「あなたは目的の星を目指して宇宙を旅している」とシュミレーターの中に暮らす人を騙し、閉鎖空間で孤独に生きる人間のデータを取っているのです。
その実験対象の女性・エレナは、生まれてから両親以外の人間とは会ったことがないままに、宇宙船(と思い込んでいる地下空間)の中でたった一人で生きているのです。
そんなエレナの元に、宇宙船のメンテナンスと称して、一人のエンジニアが現れます。
アレックスというエンジニアは、エレナにとって初めて会った人間であり、異性でした。
二人は、すぐに恋に落ちるのです。。。
この作品は、現実の科学に根ざした“Grounded Sci-Fi”というジャンルに入る映画です。
言ってみれば“いつか起こるかもしれない”物語を描いているわけです。
人体実験の被験者に恋をしてしまったら、科学者はどうすべきか?
自分が人体実験の被験者だと知り、生きていく術が他にないとわかったら、被験者はどの道を選ぶのか?
アテム・クライチェ監督は、二人の人間の究極の選択を美しい映像とともに描いていきます。
ルックはSFですが、ここで描かれているのは人間の愛と救いです。
男性が女性を救い、女性が男性を救う…。
人間の根源的な心の動きをSFという形で描いたこの作品、アテム・クライチェ監督の意欲作です。
これからスペイン語圏での活躍が見込まれるアテム・クライチェ監督、注目しておくべき若手監督の一人と言えるでしょう。
『スターシップ9』(95分/スペイン=コロンビア/2016年)
原題:Órbita 9
公開:2017年8月5日
配給:熱帯美術館
劇場:ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開
監督・脚本:アテム・クライチェ
製作:クリスチャン・コンティ/ミゲル・メネンデス・デ・スビリャガ
作曲:フェデリコ・フシド
編集:アントニオ・フルトス
撮影:パウ・エステヴェ
美術:イニーゴ・ナヴァロ
出演:クララ・ラゴ/アレックス・ゴンザレス/ベレン・ルエダ/アンドレス・パラ
Official Website:http://starship9.jp/
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(C)2016 Mono Films, S.L./ Cactus Flower, S.L. / Movistar +/ Orbita 9 Films, A.I.E.