【映画レビュー】キネマの神様

キネマの神様 (文春文庫)

松竹映画100周年を記念して作られた山田洋次監督の映画『キネマの神様』
約50年前の映画撮影所を舞台にした映画青年の青春模様と、その映画青年の現在の姿を、コロナ禍という社会情勢も含めながら描いています。

映画青年・ゴウの若き日を演じるのは、菅田将暉
ゴウの50年後の姿は、本来ならばあの志村けんが演じるはずでした。
しかし、彼の突然の死の後、志村けんの盟友とも言える沢田研二がキャスティングされ、物語におかしみを添えています。
沢田研二の演技にもちろん不満はないわけですが、できることなら志村けんが演じたゴウも見てみたかった……。

幼い頃、土曜日8時といえば「8時だョ!全員集合」「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」を見ていた世代としては、ついついそんな思いも抱いてしまうのでした。。。

STORY

ギャンブル好きで妻の淑子や娘の歩にも見放されているゴウ。彼は若い頃、映画の撮影所で監督を目指していた。出水宏監督の下で助監督として働きながら、女優の桂園子にも可愛がられ、撮影所近くの食堂・ふな喜で夜な夜な映画への夢を語り合っていた。ふな喜の看板娘・淑子はそんなゴウに惹かれていく……。それから50年。ゴウが若い頃に描いた脚本を読んだ孫の勇太は、その脚本を手直しして脚本コンクールに出そうとゴウに提案する。

解説

原田マハの原作小説を山田洋次監督が映画化した本作。

松竹映画100周年ということで、映画への夢を抱く映画青年たちの50年前と現在の姿を描いています。
50年前のパートで菅田将暉が演じる主人公のゴウは、映画の助監督として働きながら、自分も監督を夢見る若者。
ゴウが助監督としてついているのは、リリー・フランキー演じる巨匠・出水監督。彼らはまるで小津安二郎監督の『東京物語』のような作品を撮影しています。

ローアングルでカメラに向かって話しかける北川景子演じる美人女優・桂園子を見て、往年の名女優・原節子を思い出す人も多いかもしれません。
まるで1953年にタイムスリップし、『東京物語』の撮影風景を観ているような、そんな気分を味わえるのです。

この映画の舞台は、コロナ禍の現代(2021年)と、1960年代後半から1970年代初頭と思われます。
『東京物語』は1953年の作品なので、ちょっと時代的には齟齬があるわけですが……。
もしかすると、コロナ禍の描写を盛り込んだことが、この齟齬を産んだのかもしれませんね。
とは言え、志村けんという主要キャストを失った製作陣にとって、このコロナ禍の現代の様子をフィルムに残すことは、ある種の使命感のようなものがあったのでしょう。

この映画、50年前のパートはとても生き生きと色づいているのですが、現代のパートになると、どうもとってつけたようなというか、リアリティのない物語になります。
登場人物たちのセリフのやりとりも現実感がないというか……、20年前、30年前の感覚というか。

これはやっぱり、現代のパートは原田マハの原作に基づいた物語だからでしょう。山田監督が本当に描きたかったのは50年前のパートで、この50年前を描くために現代のパートがくっついているから、なのだと思います。

山田洋次監督は1931年生まれの89歳。50年前の1961年には『二階の他人』という作品ですでに監督デビューしており、1969年には『男はつらいよ』が公開されています。
そう考えると、ご自身の監督時代を振り返るというよりは、自身の助監督時代、小津監督の全盛期、1950年代のイメージをゴウに託されているのかもしれません。

考えてみれば山田監督は『東京家族』でも『東京物語』にオマージュを捧げているし、この作品には強い思いがあるのでしょう。

現代のパートは、ある意味とても現実離れしています。
現代のパートでは、かつて映画に夢を燃やし、挫折した青年が50年という時を経て、これまで一途に愛してきた映画……、言ってみればキネマの神様からご褒美をもらうのです。
これはまさに、映画を愛し続けてきた映画青年の夢が結集したファンタジー。

山田監督は、かつての自分、そしてかつての自分の仲間たち、そしてかつての自分のように映画を愛し続けてきた永遠の映画青年のためにこの作品を作ったのかもしれません。

戦後の日本映画界を牽引してきた映画監督、山田洋次は、今でも映画を愛しているのですね。
むしろ、ライフワークを完結させた今だからこそ、より純粋に映画を愛を捧げられるのかもしれません。

作品情報

『キネマの神様』(125分/日本/2020年)
公開:2021年8月6日
配給:松竹
劇場:全国にて
原作:原田マハ
監督:山田洋次
VFX監修:山崎貴
音楽:岩代太郎
主題歌:RADWIMPS feat.菅田将暉「うたかた歌」
出演:沢田研二菅田将暉永野芽郁宮本信子北川景子野田洋次郎リリー・フランキー志尊淳前田旺志郎松尾貴史広岡由里子北山雅康原田泰造片桐はいり迫田孝也近藤公園/豊原江里佳/渋谷天笑渋川清彦松野太紀曽我廼家寛太郎寺島しのぶ小林稔侍
Official Website:https://movies.shochiku.co.jp/kinema-kamisama/

関連商品

キネマの神様 (文春文庫)
キネマの神様 (文春文庫)

posted with AmaQuick at 2021.08.10
原田 マハ(著)
文藝春秋 (2011-05-10T00:00:01Z)
4.5outof5stars
¥2,800 (コレクター商品)
キネマの神様 ディレクターズ・カット
原田 マハ(著)
文藝春秋 (2021-03-24T00:00:01Z)
4.5outof5stars
¥3,782 (コレクター商品)
映画「キネマの神様」オリジナル・サウンドトラック
岩代 太郎(アーティスト)
SMM itaku (music) (2021-08-04T00:00:01Z)

¥2,750

東京物語 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]
笠智衆(出演), 東山千栄子(出演), 原節子(出演), 杉村春子(出演), 山村聰(出演), 三宅邦子(出演), 香川京子(出演), 東野英治郎(出演), 中村伸郎(出演), 大坂志郎(出演), 小津安二郎(監督)
松竹 (2013-07-06T00:00:01Z)
4.6outof5stars
¥2,626
あの頃映画 「二階の他人」 [DVD]
小坂一也(出演), 葵京子(出演), 平尾昌章(出演), 山田洋次(監督)
松竹 (2012-12-21T00:00:01Z)
4.4outof5stars
¥1,600
男はつらいよ〈シリーズ第1作〉 4Kデジタル修復版 [Blu-ray]
渥美清(出演), 倍賞千恵子(出演), 前田吟(出演), 森川信(出演), 三﨑千恵子(出演), 光本幸子(出演), 志村喬(出演), 山田洋次(監督)
松竹 (2019-12-25T00:00:01Z)
4.6outof5stars
¥2,580
男はつらいよ お帰り 寅さん [Blu-ray]
渥美清(出演), 倍賞千恵子(出演), 吉岡秀隆(出演), 後藤久美子(出演), 前田吟(出演), 池脇千鶴(出演), 夏木マリ(出演), 浅丘ルリ子(出演), 山田洋次(監督)
松竹 (2020-07-08T00:00:01Z)
4.6outof5stars
¥2,580
男はつらいよ 全50作ブルーレイボックス [Blu-ray]
渥美清(出演), 倍賞千恵子(出演), 前田吟(出演), 山田洋次(監督), 森崎東(監督), 小林俊一(監督)
松竹 (2020-12-23T00:00:01Z)
4.3outof5stars
¥116,276
あの頃映画松竹DVDコレクション 東京家族
橋爪功(出演), 吉行和子(出演), 西村雅彦(出演), 夏川結衣(出演), 中嶋朋子(出演), 林家正蔵(出演), 妻夫木聡(出演), 蒼井優(出演), 山田洋次(監督)
松竹 (2016-08-03T00:00:01Z)
4.3outof5stars
¥2,729
番組誕生40周年記念盤 8時だョ!全員集合 2008 DVD-BOX 通常版
ザ・ドリフターズ(出演), ザ・ドリフターズ(Unknown)
TBS (2012-09-12)
4.6outof5stars
¥7,546
加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ [DVD]
加藤茶(出演), 志村けん(出演)
ポニーキャニオン (2012-11-20T15:00:00.000Z)
4.3outof5stars
¥5,437
スポンサーリンク
レクタングル(大)
レクタングル(大)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存