エンター・ザ・ボイド / Soudain le vide
『カルネ』、『カノン』、『アレックス』などで知られるギャスパー・ノエ監督の新作映画『エンター・ザ・ボイド』。
実は、これまでのギャスパー・ノエ作品はどれもニガテだった私。
本作も、きっとニガテなんではなかろうかと、恐る恐る観に行きました。
が、この作品は平気でした。むしろとっても興味深い!
生(性)と死、恍惚と退廃がギラギラと輝き、あやしげな残像を記憶の中に残していってくれました。
TOKYOの見憶えのある街並みを舞台に、ネオンのサイケデリックな色彩の中にたゆたうような映像感覚。
ドラッグをキメた時の脳内映像はこんな感じなのか…、ジャンキーの脳内を疑似体験するような、映像の数々。
思わず没入してしまいました。
余談ですが、ギャスパー・ノエの属性は“めがねっ娘ビッチ萌え”ではないかと推測します。
<STORY>
東京で暮らすオスカー。最愛の妹・リンダを東京に呼び、一緒に暮らし始めたオスカーだが、特に定職も持たずドラッグに溺れ、やがてドラッグの売買にも手を出すようになっていた。リンダは街で出会った男に誘われ、ストリップ劇場でポール・ダンサーとして働き始める。ある日、友人にドラッグを渡そうと入ったバー「VOID」でオスカーは警察に撃たれてしまう。これまでの人生がフラッシュバックし、オスカーの魂は体を離れて行く…。
<Cheeseの解説>
新宿・歌舞伎町のアンダーグラウンドで生きる外国人兄妹の魂の彷徨を描いた物語。
幼い頃、家族4人で車に乗っている際に追突事故にあい、生き残った兄妹ふたりは、他に頼る人もいない日本という異国で、よるべない生活を始めます。
なぜ、兄・オスカーは日本に来たのか?
なぜオスカーは妹・リンダを日本に呼び寄せたのか?
“イケメン外国人だから仕事なんかカンタンに見つかる”ハズなのに、オスカーは仕事をしようとせず、クラブに出入りして日本の女の子をナンパしたり、ドラッグを売ったりするだけです。
そして、リンダは日本のセックス産業の中に仕事を見出だし、その仕事を紹介したマリオという男と付き合い始めます。
ふたりだけの生活に、マリオやジャンキーの友人といった要素がどんどんと侵入して来て、それとともに、ふたりの生活はセックス&ドラッグというアンダーグラウンドな世界に、どんどんとまみれて行くのです。
オスカーは、ジャンキーの友人から「チベット死者の書」という本を借りて読んでいます。
ジャンキーの友人が説明するその本の内容は、下記のようなもの。
「死ぬと、人間の魂は体から離れて浮遊する。自分を取り囲む友人たちの姿が見えるが、声をかけたりは出来ない。そして、生前の自分の人生がフラッシュバックしていく。生に執着している魂は、そのまま世界をうろうろしている。そしていずれ、大いなる光を見て、その中に取り込まれていく。そして、輪廻転生するんだ」
そして、死亡したオスカーの魂は、まさにそのような道程を辿るのです。
セックス&ドラッグといった生の絶頂を感じさせる世界で生きてきたオスカーは、その世界から追い出され、何もない死の世界をさまよいます。
生と死、輪廻転生、兄妹愛。
オスカーは人生を追体験しながら、人間の生と死の営みをじっと見つめ続けているのでした。
舞台となっている歌舞伎町は、人間の生と欲望のパワーと共に、アンダーグラウンドな退廃を感じさせ、まさにこの映画の舞台にぴったりです。
ネオンきらめく繁華街の街並みや、道路を走り抜けるデコトラ。
毒々しく光る「LOVE HOTEL」のネオン。
妖しさ満点の、なんでもありの混沌の世界です。
ラブホテルのネオンやサーチライトなど、日本で暮らす我々には見なれた風景ですが、外国から来た異邦人には異様な光景なんでしょうね。
輪廻転生と言う考え方も、日本人にはわりとなじみのある考え方ですが、“復活”を信じる西洋の人たちにはそれほどなじみ深いものではないはず。
来日した鬼才監督は、歌舞伎町のあやしいネオンに魅入られ、生と死が一体となった、こんな物語を考え出したのでしょうか。
でも、映画のあの唐突な終わり方こそが、ギャスパー・ノエ監督の本当の死生観なのかもしれません。
まさに、そのタイトル通り…。
『エンター・ザ・ボイド』(143分/フランス/2010年)
原題:Soudain le vide
英題:Enter The Void
公開:2010年5月15日
配給:コムストック・グループ
劇場:シネマスクエアとうきゅうほかにて
製作・監督・脚本・撮影・編集:ギャスパー・ノエ
出演:ナサニエル・ブラウン/パズ・ラ・ウエルタ/シリル・ロイ
公式HP:http://www.enter-the-void.jp/
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