【映画レビュー】Summer of 85 / Ete 85
1967年生まれのフランソワ・オゾン監督が、17歳の時に読んで感銘を受けたというエイダン・チェンバーズの小説「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ)。
オゾン自身が「いつか長編映画を監督する日がきたら、その第一作目はこの小説だ」と思ったというこの作品が、1998年の監督デビューから22年の時を経て、長編21作目にして映画化されました。
映画『Summer of 85』は、オゾンの思い入れの詰まった青くさくもみずみずしい初恋の物語。
理想の親友と出会い、恋を知り、それを愛だと思い、でも裏切られ、傷ついてもがき苦しむ16歳の少年の姿が、リアリティたっぷりに描かれています。
STORY
1985年、夏。フランス・ノルマンディー地方の海辺の街で暮らす16歳の少年・アレクシは18歳のダヴィドと出会い、強引なダヴィドに惹かれていく。最高に美しい夜を過ごした日、ダヴィドの提案で二人は「どちらかが先に死んだら、遺された方がもう一人の墓の上で踊る」という誓いをたてた。アレクシはダヴィドに夢中になり、幸せな日々を過ごしていた。しかし、出会いから6週間で、ダヴィドはバイク事故で突然命を落としてしまう……。
解説
オゾン監督が「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ)を読んでから1年後、1985年の夏を舞台とする本作。
海辺の街ル・トレポールで暮らす16歳のアレクシは、転覆していたヨットから助けられたことをきっかけに、18歳のダヴィドと出会います。
そこでダヴィドから「アレックス」と呼ばれたアレクシは、その時から「アレックス」として生きるようになるのです。その出会いは、まさにアレックスの根元を変えてしまうものでした。
これからの先何をしようかもまだ決まっていない、ウブな16歳のアレックスと、父の死をきっかけに学校をやめて家業の経営をしているダヴィド。
初めて恋をするアレックスと発展家のダヴィド。アレックスはすぐにダヴィドに夢中になり、夢のように美しい夜、楽しい日々を過ごします。恋の喜びを実感する甘い日々でした。。。
しかし、そんなアレックスの姿は、ダヴィドにとっては重い足枷となっていきます。
そして、ダヴィドがアレックスの友人でもある女性・ケイトと夜を共にしたことがきっかけで、二人は大げんかしてしまいます。そしてその日が、二人の永遠の別れとなるのです。。。
この物語の主人公・アレックス役とダヴィド役に、オゾン監督は並々ならぬこだわりを見せたそう。
オーディションでアレックス役を射止めたフェリックス・ルフェーヴルは、「彼こそアレックスだ。童顔で笑顔も子供のように愛くるしくて、生命感に溢れている。それでいて目にはどこか哀愁があり、80年代人気だったリヴァー・フェニックスの雰囲気がある」と絶賛されたそう。
ダヴィド役のバンジャマン・ヴォワザンも「どことなくおどおどしたアレックスが羊なら、ダヴィドは野生動物のイメージだ。アレックスの視点からすると、バンジャマンこそダヴィドだと感じた」と、アレックス役でオーディションに参加したものの、オゾン監督のインスピレーションによりダヴィド役に起用されたそうです。
愛らしさと生命感、素直さを感じさせるフェリックス・ルフェーヴルに対し、甘やかな美貌と華やかな雰囲気、それでいて気怠げな危うさと危険な雰囲気を感じさせるバンジャマン・ヴォワザン……。まさに、この作品の主人公たちにぴったりな二人でした。
実はこの作品、最初は1984の夏が舞台として設定されていたそう。
しかし、THE CUREの代表曲「In Between Days」を使用するにあたり、THE CUREから「本曲リリースの1985年に映画タイトルを合わせること」という条件を提示され、当初予定していた『Summer of 84』から『Summer of 85』へとタイトルが変更されたそうです。
THE CUREの他にもロッド・スチュワートの「The Sailing」が物語のキーとなる曲として使用されたり、バナナラマの「Cruel Summer」(1983年リリース)が二人のショッピングデートのシーンで流れるなど、80年代のヒット曲が劇中に登場し、あの時代の空気感を再現しています。
「The Sailing」はもちろんですが、「Cruel Summer」もこの作品にぴったり……。さすがの選曲です。
映像も全編16mmフィルムで撮影されたこの作品、青すぎない海や空、美しすぎない風景、それがまさに青春のまぶしさと、どこか見覚えのある既視感を感じさせます。
一人でいる時の、美しいけれどよくみると少しにごった海、雲行きの良くない空。
でも、ダヴィドと二人で過ごすとき、空は青く晴れ渡り、海は青く煌めいています。
この映像からも、心と体がアンバランスでモヤモヤする青春時代のあの頃を思い出させてくれるのでした。
オゾン監督は、この作品で自身の青春時代を再構成し、追体験しているのかもしれません。
かつて「監督デビューをするならこの作品」とまで思ったという原作を、監督デビューから22年目にして作り上げた映画『Summer of 85』。
ある意味、監督の第二のデビュー作とも言えるのかもしれない、なんて思ってしまうほどのみずみずしさと青春のほとばしりを感じさせる、そんな青春物語でした。
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作品情報
『Summer of 85』(100分/フランス/2020年)
原題:Ete 85
英題:Summer of 85
公開:2021年8月20日
配給:フラッグ、クロックワークス
劇場:新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマほか全国にて順次公開
原作:エイダン・チェンバーズ
監督・脚本:フランソワ・オゾン
音楽:ジャン=ブノワ・ダンケル
出演:フェリックス・ルフェーヴル/バンジャマン・ヴォワザン/ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ/メルヴィル・プポー/フィリッピーヌ・ベルジュ/イザベル・ナンティ/ブリュノ・ロシェ
Official Website:http://summer85.jp
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