【映画レビュー】ケープタウン / Zulu
映画「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの輝くような王子っぷりでスターダムに上りつめたオーランド・ブルーム。
ブレイク以来、ハリウッドの大作だけではなく、意外と社会派で地味目な作品にも多く登場しています。
そんな彼が、南アフリカ共和国のケープタウンを舞台に、酒とドラッグに溺れ、別れた妻や18歳の息子ともうまくいっていない問題だらけの刑事を演じているのが、この映画『ケープタウン』です。
かつてアパルトヘイト政策を実施していた南アフリカが抱える多くの問題が、だんだんとあぶり出されていくようなこの作品。
ネルソン・マンデラの運動を支援していた社会活動家のハリー・ブルームを義理の父に持ち、彼の精神や思考に大きな影響を受けたというオーランド・ブルームにとって、この作品は出会うべくして出会った作品と言えるのかもしれません。
STORY
南アフリカ・ケープタウンで白人の少女・ニコールが殺され、ズールー族出身の刑事・アリと白人の刑事・ブライアンとダンが捜査にあたることになる。ニコールは死亡時に成分不明の麻薬を摂取していた。その頃、街では黒人の子どもたちの間にも麻薬が蔓延しており、行方不明の子どもたちが増えていた。殺人事件での聞き込み中、ダンは若者たちに殺されてしまう。ニコールの事件の裏には、過去から続く麻薬を巡る陰謀が隠されていたのだ…。
解説
この映画で描かれているのは、南アフリカ共和国が抱える闇の部分です。
有色人種を差別するアパルトヘイト政策を実施していたこの国では、有色人種も、白人も、それぞれに傷と闇を抱えているのです。
それに輪をかけているのは、複雑な民族構成。
映画の原題でもある“Zulu”、ズールー族は、かつて19世紀に南アフリカが植民地化された時に、もっとも激しく白人と戦った民族だそう。
ネルソン・マンデラが進めた民主化に最後まで抵抗したのも、このズールー族だそうです。
フォレスト・ウィテカーの演じるこの映画の主人公のアリは、ズールー族の出身。
子どもの頃、激しい弾圧を受け父親を殺された経験を持ちながらも、現在では刑事として人から信頼と尊敬を受けています。
「人間には知性と教養があるから、復讐はしないんだ」と語る彼ですが、貧民街に暮らす愛人や老いた母親との関係性からは、どこかトラウマを感じさせます。
オーランド・ブルーム演じる白人刑事・ブライアンも、アパルトヘイトによる傷を抱えています。
差別主義者だった自分の父親を嫌い、母親の姓を名乗る彼は、自分の息子ともうまく関係性を築けないでいるのです。
そんな二人が、ある殺人事件を捜査するうちに、南アフリカが抱える過去の因縁にたどり着きます。
黒人の間で流行している“ティキ”という麻薬。
黒人の子どもたちが多く行方不明になっているという事実。
凶暴化する子どもたち。
“ティキ”という麻薬の作られた過程と、その本当の狙い…。
それらの点と点がやがてひとつに集約され、おぞましい真実が浮かび上がった時、灼熱の砂漠である決着がつけられるのです…。
フランス人監督のジェローム・サル監督は、南アフリカが抱える複雑な問題を通し、赦すことの必要性と難しさをまっすぐに描いています。
フランス製作の映画ながらも英語とアフリカーンス語が使用され、オーランド・ブルーム(英国人)とフォレスト・ウィテカー(アメリカ人)以外は南アフリカ出身の俳優たちを起用して製作された本作、この題材にふさわしい、複雑かつ多様性を帯びた現代ならではの一作と言えるでしょう。
作品情報
『ケープタウン』(107分/フランス/2013年)
原題:Zulu
公開:2014年8月30日
配給:クロックワークス
劇場:全国にて
原作:キャリル・フェリー
製作総指揮:フレデリック・ドニギアン
監督・脚本:ジェローム・サル
脚本:ジュリアン・ラプノー
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:オーランド・ブルーム/フォレスト・ウィテカー/コンラッド・ケンプ/インゲ・ベックマン/ティナリー・ヴァン・ウィック/ルガルド・ヴァン・デン・ベルグ/ランドール・メイジエ/パトリック・リスター/ジョエル・カエンベ/タニア・ファン・グラン/ダニー・キーオ/クリスチャン・ベネット/イマン・アイザックス/ディーン・スレーター
公式HP:http://capetown-movie.com/
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