【映画レビュー】ゼロの焦点
松本清張生誕100周年という記念すべき年に制作された映画『ゼロの焦点』。
昭和33年(1958年)を舞台にした“女の事件簿”。
たった50年、時をさかのぼっただけなのに、こんなに何もかもが違っているということに、驚いてしまいます。何もかもを生まれながらに手に入れている私たちは、彼女たちに感謝しなければならないですね…。
STORY
広告代理店に勤める10歳年上の男・鵜原憲一と結婚した禎子。金沢支店から東京に転勤となった憲一は、最後の引き継ぎのため、結婚式から7日後に金沢に旅立った。しかし、一週間で帰ってくる予定だった憲一が、予定日を過ぎても帰って来ない。心配した禎子は金沢へ行き、憲一の足取りを追う。憲一のことを何も知らないことに改めて気付いた禎子は、憲一をひいきにしていたというタイル会社の社長夫人・室田佐知子の元を訪ねる。
解説
本作は、『ジョゼと虎と魚たち』、『メゾン・ド・ヒミコ』などの青春恋愛映画に定評のある犬童一心監督が挑んだ社会派サスペンス大作です。
そのせいか、どこか演出が力み過ぎているような…、大げさなおどろおどろしい演出が目立ちます。
公式HPのインタビューで、犬童監督が、
「テレビで観た時代劇も含めた大映映画の強い影響が出ている気がします。セットの見せ方とか俳優のテンションの高さとか。」
と語っているように、演出や音楽も、全般的にテンションが高めなのです。
登場するキャラクターの誰も彼もがあやしく見え、耳慣れない金沢弁の語尾を長く伸ばすしゃべり方に、禎子(広末涼子)と同じような異邦人感覚を抱かせます。
その大げさな演出は、中谷美紀演じる室田佐知子が場面に登場して、やっとしっくり場面になじみ始めます。
ビスクドールのような、隙のない美貌の中谷美紀。
彼女の立ち居振る舞い、ファッション、美貌、何をとっても大げさです。
田舎にいたら目立ち過ぎます。
もしかしたら、彼女の雰囲気と調和させるために、必要以上に大げさな演出をせざるを得なかったのでは!? と思ってしまうほど。
国際派大女優の貫録たっぷりで、“女の業”というモノをきっちり見せてくれています。
中谷美紀と比べると、禎子役の広末涼子、田沼久子役の木村多江はどうしても霞んでしまいますね。
きっちりと化粧をした中谷美紀に比べ、広末涼子と木村多江がほとんどノーメイク(に見えるメイク)だったせいもあるのかもしれませんが…。
広末涼子は“何も知らない無垢な良家のお嬢さん”を演じようとしているのですが、そこに多少無理があります。
木村多江は田舎でひっそり暮らしている女性らしい、ナチュラルな演技なのですが、登場シーンも少ない上に、中谷美紀と一緒のシーンが多いので、どうしても印象が薄くなってしまっています。
これは、受け身な禎子と、流されるように生きる久子、自らの力で時代を変えようとする佐知子という、キャラクターの持つパワーの違いから、しょうがないのかもしれません。
暗い時代の中で懸命に生き抜こうとする女たちを描いた本作、内に秘めた女性の業を色濃く映し出します。
この女たちの業の深さを、現代の人間にわかりやすく表現するためには、これだけの時代がかった演出が必要だったのかもしれません。
それこそ、大映映画的な。
そうそう、50年前の映画ですが、ファッションがなかなか素敵です。
広末涼子の来ているベージュのコート(ランタン・スリーブがポイント)や、謎の女が着ている赤いベルテッド・コート(くるみボタンも可愛い)など、欲しいコートがいっぱい。
中谷美紀の大げさなファッションも美しいし、50年前の女性たちは、意外とファッショナブルだったのかもしれないですね。
作品情報
『ゼロの焦点』(131分/日本/2009年)
公開:2009年11月14日
配給:東宝
劇場:全国東宝系にて
監督:犬童一心
原作:松本清張
出演:広末涼子/中谷美紀/木村多江/西島秀俊/鹿賀丈史/杉本哲太
公式HP:http://www.zero-focus.jp/
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