【映画レビュー】八日目の蝉
どうしようもない男とのどうしようもない不倫に傷ついた女性が、不倫相手の男性と奥さんの間に生まれた赤ちゃんを誘拐したことから起こる悲しい物語を描いた映画『八日目の蝉』。
誘拐犯の女性・野々宮希和子を永作博美、彼女に誘拐されて数奇な人生を送ることとなった女の子を井上真央が演じています。
永作博美の見せる娘を必死で愛し、守り抜こうとする野々宮希和子の姿は、“母性”とは何なのかという問題を、観ているものに突き付けてくれます。
でも、いざ子どもを手にした後、野々宮希和子は誘拐のきっかけである不倫相手のことはまったく思い出しもしないのですよね。。。
“母”であることの方が、“女”であることより、生物的に重要度が高いのでしょうか。
赤ん坊を抱いた瞬間に“母になる”という生物学的なメカニズム、どうにも気になります。
<STORY>
秋山恵理菜は生後6ヶ月の時に、父・丈博の不倫相手だった野々宮希和子という女に誘拐され、4年間、薫という名前で彼女に育てられていた。保護された後、恵理菜は実の親のもとに戻るが、彼らを親と思えずに大きくなる。そんな恵理菜の様子を見て、実の母親の恵津子は苛立ち、秋山家はどんどん壊れていった…。大学生になった恵理菜は一人暮らしを始める。そんな彼女のもとに、事件のことを調べているというライターの安藤千草が訪ねて来た。
<解説>
角田光代の原作小説を『孤高のメス』の成島出が監督した本作は、なんともヒリヒリするような“女”と“母”のドラマです。
事件の種を蒔くのは、ぜーんぶ男。
でも、最終的に男はまったくカヤの外。
男性諸氏は、この作品をどう感じたのでしょう…。そのあたり、興味深いですね。
永作博美が演じる不倫相手の子どもを誘拐し4歳まで育てた野々宮希和子。
彼女は、不倫相手の秋山丈博を妊娠し堕胎したものの、不倫相手の妻・恵津子が妊娠していることを知ります。
さらに、恵津子に「あなたはからっぽのがらんどうなの」と罵られ、彼女は大きなショックを受けるのです。
そして、恵津子が丈博を送って行った、ちょっとの時間に秋山家に忍び込み、丈博と恵津子の間に生まれた赤ん坊の恵理菜を誘拐するのです。
丈博と自分の間にできた子どもに名付けるつもりだった“薫”という名で恵理菜を呼び、薫を育てるために、すべてを犠牲にして、宗教施設や、遠く離れた小豆島にて名前を偽って暮らしていました。
しかし誘拐から4年後、彼女は逮捕され、薫と引き離されてしまいます。
森口瑤子演じる、夫に浮気され、夫の浮気相手に自分の子どもを誘拐される妻・秋山恵津子。
赤ん坊だった恵理菜を4年後に取り返した彼女ですが、恵理菜が自分を“薫”だと思っていること、自分の使う標準語とは違う関西なまりの言葉を使っていることに苛立ち、恵理菜とうまく関係を作ることができません。
本来ならば、彼女は完全なる被害者なのですが、彼女の言動が、堕胎後に不安定になっている希和子を刺激し、希和子を誘拐に走らせたとも言えます。
しかし、恵津子にそんな言動をとらせたのは、他でもない夫・丈博なのです。
そして、井上真央演じる本作の主人公、4歳まで誘拐犯である野々宮希和子を母と信じ、自分の名を“薫”だと思って育ってきた秋山恵理菜。
彼女は、実の両親を実の両親と思えず、しかし4歳まで自分を育てた野々宮希和子を「世界一悪い女」と聞かされて育ちます。
「世界一悪い女」と同じ関西なまりの言葉を使ってしまい、母親を苛立たせてしまう自分が悪いのだと思い、ダブルバインドの中で苦しんできた彼女。
両親との関係もうまく行かず、大学生になって一人暮らしを始め、一人の男性を好きになります。
しかし、その男性は妻子のある年上の男。
「妻とはそのうちきちんとする」と、自分の父親と同じようなことを言う男のことを好きになってしまうのです。
そして、妊娠…。
彼女たちは、身勝手な男に振り回されながらも、必死で生き続けます。
必死にもがく彼女たちに救いの手を差し出してくれるのは、すべて女たち。
一人の男をめぐって女同士で競い合うこともあるけれど、いざという時に女にとって頼りになるのは、やはり女ということなのでしょうか。
個人的には、もうちょっと男性を信じてあげてもいいのではないかと思いますが…、まあ、この作品に出てくる秋山丈博や恵理菜と付き合っている男性は、やっぱり二人とも最低ですもんね。。。
さて、この作品ですが、俳優陣がかなり素晴らしい演技を見せてくれます。
永作博美、井上真央、森口瑤子はもちろんなのですが、小池栄子の挙動不審な演技がすごい。
セカセカした歩き方や、目を合わせずに人としゃべる様子などを見ただけで、彼女が演じる安藤千草の社会不適合ぶりが伝わってきます。
プレスを見ていると、全体的に、かなり監督からの演技指導は厳しかったようで…、でも、監督がはっきりとしたビジョンを持ち、そのビジョンを俳優に体現させているからこそ、これだけの緊迫感を持った作品を作り上げることができたのでしょう。
そして、物語終盤に登場する田中泯の佇まいも、彼にしか出せない味が出ています。
なんだろう、あの存在感。座っているだけで、「顔見せて」の一言だけで、深いドラマが伝わってくるよう。
この役に田中泯をキャスティングした人、本当にいい仕事をしてくれたと思います。
『八日目の蝉』(147分/日本/2011年)
公開:2011年4月29日
配給:松竹
劇場:全国にて
原作:角田光代
監督:成島出
主題歌:中島美嘉
出演:井上真央/永作博美/小池栄子/森口瑤子/田中哲司/市川実和子/平田満/劇団ひとり/余貴美子/田中泯/風吹ジュン
公式HP:http://www.youkame.com/
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