【映画レビュー】空蝉の森
「そう言えば、のりピーって女優さんだった……」
スクリーンの中の酒井法子の佇まいを見て、そんなことを思い出させてくれた映画『空蝉の森』。
確かに、2009年の逮捕以降、女優・歌手としてではなくお騒がせセレブとしてのみ世間を賑わせてきた彼女。
2014年に撮影された本作が、紆余曲折を経てやっと2021年に公開が叶ったという理由も、彼女が主演だったということも原因の一つになるのではないでしょうか。
まだ少女のうちから男の欲望に蹂躙され、男の野望に搾取される、そんな女性が描かれた本作。
観ているうちに、ついつい彼女の実人生を思い起こしてしまいます。
まあ、などと言いつつ、彼女の実人生のリアルを知ってるわけではないわけですが……。
<STORY>
夜明けの町を呆然と歩いていた加賀美結子。警察に送られて夫の昭彦の元に帰るが、3ヶ月間失踪していた彼女は、その間の記憶が全くないと言う。昭彦はそんな結子に違和感を感じ「この女は結子ではない」と主張し始めた。失踪課の假屋警部に説得され、しばらく同居しながら様子を見ることになる。昭彦のかかりつけの精神カウンセラー・山井と会った結子は、「昭彦は遺産のために自分を家に戻らせないようにしている」と推測してみせるが……。
<解説>
3ヶ月の失踪を経て、突如戻ってきた美しい女性。彼女は本当に加賀美結子なのか?
そんな謎に満ちた始まり方をする本作。
謎の中心となる加賀美結子は、聞こえないようなか細い声で「私は結子だよ」と主張します。
斎藤歩演じる夫の昭彦、西岡徳馬演じる精神カウンセラーの山井、柄本明演じる定年退職間近の失踪課の刑事・假屋らは、そんな結子に翻弄され、だんだんと不安定になっていきます。
そんな頃、金山一彦演じるフリージャーナリストの青柳は、趣味で失踪者について調べているうちに、過去のある事件と今回の失踪事件がつながっていることに気づくのです……。
あちこちに監視カメラのある加賀美家。
家にまでやってくる昭彦の愛人。
監視カメラに映った秘密。
それらはやがて、一つの真実に繋がっていきます。
ただ辛そうな顔でそこに立ち尽くす結子。
そんな彼女の表情にそそられ、明彦、山井、假屋警部ら、男たちはその本性をむき出しにしていくのです……。
彼女は男たちからは欲望の目で見られ、角替和枝演じる民宿の女主人、長澤奈央演じる昭彦の愛人といった女性たちからは「汚い!」と侮蔑の目で見られるのです。
ただそこにいるだけなのに……。
物語の謎の中心にいる結子ですが、彼女はからっぽな空蝉。
彼女の心の中にある虚無は埋められることはなく、ただ無限に広がっていくばかりなのでした……。
映画冒頭に映し出される森、そして海の映像は、何もかもを飲み込んでいくような、静謐な大いなる存在です。
この大いなる美しさの奥にある、底知れぬ虚無に思わず畏怖を感じてしまいました。
この虚無は、人気アイドル、そして人気女優としてスポットライトの中心にいたはずの酒井法子の心の中にも、広がっていたのでしょうか……。
『私の奴隷になりなさい』、『甘い鞭』の亀井亨監督が描き出した、一人の女性の中にある虚無の美しさと虚しさ。一見の価値ありです。
『空蝉の森』(118分/日本/2016年)
公開:2021年2月5日
配給:NBI
劇場:アップリンク渋谷ほか全国順次公開
監督・脚本:亀井亨
脚本:相原かさね
音楽:野中“まさ”雄一
主題歌:大黒摩季「OK」(Being)
出演:酒井法子/斎藤歩/金山一彦/長澤奈央/角替和枝/西岡徳馬/柄本明/池田努
Official Website:https://utsuseminomori.com/
角川書店 (2013-03-15T00:00:01Z)
¥4,635
KADOKAWA / 角川書店 (2014-02-28T00:00:01Z)
¥5,357