【映画レビュー】TOVE/トーベ / Tove
1914年にフィンランドのヘルシンキで生まれたトーべ・ヤンソン。
「ムーミン」シリーズの作家である彼女の愛と、ムーミンが生まれ育っていった過程を描いた映画が、本作『TOVE/トーベ』です。
ムーミンといえば、可愛らしい絵柄とは裏腹に、シニカルだったり哲学的だったり、シュールな世界観も特徴的。
キャラクターたちが発するそれらの言葉には、こんな背景があったのか……と、驚かせられました。
何もかも破壊された、戦争直後という窮屈な時代に、自由な精神で愛や創作を続けたトーべ・ヤンソンのあり方に、アーティストの魂を感じることができるはずです。
STORY
第二次世界大戦下。フィンランド・ヘルシンキで著名な彫刻家の娘として生まれたトーべ・ヤンソンは、風刺画などを描いて生計を立てていた。1943年、彼女は不思議な生き物・ムーミントロールの絵を描き始めた。戦争が終わり、トーベは爆撃で壊れたアパートメントに住み始める。妻のいる政治家のアトス・ヴィルタネンと付き合い始めたトーベだが、あるパーティーで市長の娘であるヴィヴィカ・バンドラーと出会い、たちまち恋に落ちる……。
解説
フィンランドの著名な彫刻家ヴィクトル・ヤンソンの娘として生まれたトーべ・ヤンソン。
彼女は父親から芸術家になることを期待され、絵画で成功するように望まれていました。
戦争が落ち着くと、彼女は父から離れ、爆撃で壊れた天井の高いアパートメントで暮らし始めます。
絵画ではなかなか芽が出ず、風刺画や小説、絵本などを製作して糊口を凌いでいました。
そんな日々のなかで彼女は自ら生み出したキャラクター「ムーミン」を育てていき、1945年にはムーミン小説の第1作となる『小さなトロールと大きな洪水』を出版します。
そんな彼女の恋人は、政治家で哲学者、そしてジャーナリストでもある既婚のアトス・ヴィルタネンという既婚者。1943年に出会い、トーべのよき相談者でもありました。
やがて1946年。トーベはヴィヴィカ・バンドラーという市長の娘と出会います。
既婚者の彼女は、夫がありながらも奔放に振る舞うブルジョアで、舞台演出家として活動していました。
ヴィヴィカは初のムーミン劇『ムーミントロールと彗星』の演出もしています。この舞台化において、トーべは脚本や美術も務めています。
トーべとヴィヴィカは、同性愛が認められない時代に、トフスランとビフスランと呼び合い、独自の言葉や暗号で愛を伝えあったそうです。そう、まるで「ムーミン」シリーズに出てくるトフスランとビフスランのように。
本作には、そんな風に、30代〜40代にトーべが直面した愛や葛藤、そしてアーティストとして名声を得ていく様子が描かれています。
彼女の魂はいつも自由で、いつも何かと戦い、いつも何かを探しているよう。
そうやって日々出会った人やもの、そして感じた思いを、作品に昇華させていたのです。
やがて、彼女はトゥーリッキ・ピエティラと出会い、パートナーとして生活を共にするようになるのでした。
ザイダ・バリルート監督は、そんなトーべの魂を、激しいジャズの音色と彼女が時々に見せる軽やかなダンスで表現しています。
何ものにも囚われず、自分の魂、自分の体は自分のものである、そんなトーべの宣言が高らかに響くような、印象深いダンスでした。
劇中には、ムーミンの登場人物たちを思わせるモチーフがいくつか登場します。
スナフキンの帽子、トフスランとビフスランの二人だけにわかる不思議な言葉、おしゃまさん(トゥーティッキー)のファッション……。
トーベは、自らが愛した人たちを、ムーミンシリーズに人型のキャラクターとして登場させているのですね。
そう考えると、他の人型のキャラクターたちにもモデルがいるのでしょう。そのモデルたちを知りたくなってしまいました。
作品情報
『TOVE/トーベ』(103分/フィンランド=スウェーデン/2020年)
原題:Tove
公開:2021年10月1日
配給:クロックワークス
劇場:新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて
原案・脚本:エーバ・プトロ
監督:ザイダ・バリルート
音楽:マッティ・バイ
出演:アルマ・ポウスティ/クリスタ・コソネン/シャンティ・ロニー/ヨアンナ・ハールッティ/ロバート・エンケル/カイサ・エルンスト/ヤーコプ・エールマン
Official Website:https://klockworx-v.com/tove/
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