東京島
22人の若い男たちと狭い南の島に閉じ込められた40代女性のサバイバルを描いた映画『東京島』。
原作の桐野夏生のファンで原作も読んでいるため、楽しみに観に行ったこの作品。
原作での主人公は、小太りで、決して美人ではない40代女性という設定でしたが、映画版の主人公は木村多江。
十分美しく、魅力たっぷりです。
私は木村多江も好きで、彼女の魅力がこの映画に華を与えていることは事実だと思います。
天然色の自然の中に、カラフルなエルメスのカレ(正方形のスカーフ)を身にまとって登場する木村多江は、本当に美しい。
でも、この原作のキモは、“若くも美しくもなく、魅力もない中年女性が「女性であるというだけで」若い男性たちの中に女王として君臨し、その才覚と本能でずぶとく生き抜く”というところだと思うんですよね…。
そういう意味では、原作と別物として観に行った方がよいと思います。
個人的に、原作を読んでいる時は、渡辺えりさんを清子と想定しながら読んでいたので…。
<STORY>
結婚20周年記念に夫婦でヨットの旅に出た隆と清子。しかしヨットが難破し、ふたりは南の島に漂着する。その後、与那国島での過酷なアルバイトから逃げる途中で事故に遭った16人の若い男たちも同じ島に漂着。彼らは“東京島”と名付けた島で、男16人、女1人で生活を始める。夫・隆が転落死した後、いつしか清子は女王のような存在になっていた。清子は若者の中から新たにカスカベという夫を迎えるが、カスカベも死んでしまう…。
<Cheeseの解説>
この作品、ストーリーは原作どおりに進んでいきます。
ただ、前半はかなりざっくり。
最初の夫・隆は登場後即座に死んでしまうし、16人の若い男性たちも、ほぼ最初から登場します。
原作では、島に流れついた男たちの描写がけっこう細かく、島内政治の模様や「ブクロ」「ジュク」「シブヤ」とそれぞれが別れて暮らす様子などが描かれていましたが、映画ではその辺の説明はナシ。
「トーカイムラ」や「コウキョ」などと、急にセリフに出て来るだけなので、原作を読んでいない人はちょっと理解に時間がかかるかもしれません。
この作品の見どころは、なんと言っても木村多江演じる主人公・清子の図太さ、ずうずうしさ、たくましさ、ずるさ。
ネガティブな言葉ばかりですが、無人島で女一人サバイバルするには、この強さはとても大事。
生き抜いて、日本に帰るためならなんでもする、という女性の強さ・身勝手さを見事に表現していました。
それに引き換え、男たちはやはりちょっと脆弱です。
なまじっか、男は数がいるせいか、「オラガオラガの我を捨てて、オカゲオカゲのゲで生きろ」というように、みんな仲良く突出しないように生きています。
途中で島に流れついた中国人たちは、そんな精神はもっておらず、日本人を出し抜く気満々なのも、なんだか今の現状を表わしているようで、かなり皮肉。
究極の場では、我を捨てて生きていると、みんな仲良くゆで蛙のように野垂れ死ぬばかり。
清子のように、誰を裏切ってでも、自分ひとりで生き抜こうという“我”の意識が必要なのでしょう。
これは、清子の個人的特性なのか、女性と男性の性差なのかも興味深いところです。
性差だとすれば、“王子”は現状を受け入れて暮らし、“王女”は新しい現代生活に適応して暮らして行くというところも、なんだか暗示的ですね…。
『東京島』(129分/日本/2010年)
公開:2010年8月28日
配給:ギャガ
劇場:シネスイッチ銀座ほか全国にて
原作:桐野夏生
監督:篠崎誠
出演:木村多江/鶴見辰吾/窪塚洋介/福士誠治/柄本佑/木村了/染谷将太/山口龍人/南好洋/結城貴史/清水優/阿部亮平
公式HP:http://tokyo-jima.gaga.ne.jp/
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