【映画レビュー】KCIA 南山の部長たち / 남산의 부장들

Das Attentat - The Man Standing Next

2012年の韓国大統領選挙朴槿恵(パク・クネ)大統領が誕生した時、韓国人の友人が「彼女のお父さん、すごく怖い人だったんです。だから、パク・クネが大統領になるのって、なんだか怖い……」と不安を語っていました。

この映画『KCIA 南山の部長たち』は、パク・クネの父親である第5代-第9代大統領朴正煕(パク・チョンヒ)が暗殺される前の40日間を、暗殺者である金載圭(キム・ジェギュ)の視点から描いた物語。

本作を観て、パク・クネ大統領の誕生に恐怖を感じていた彼女のことを思い出しました。

韓国の歴代大統領には、穏やかな老後を送っている人はいないと言われますが、存命中の暗殺は、その不幸の最たるものではないでしょうか。

韓国政界の闇の一端を見せてくれた本作。
一人の独裁者がいかに人を壊していくか、その恐怖を実感できる作品です。

STORY

1979年、KCIAの元部長であるパク・ヨンガクが、米国の下院議会聴聞会で韓国のパク大統領による政治腐敗を告発した。現KCIA部長のキム・ギュピョンは大統領から事態の鎮静を命じられ、かつての友人でもあるパク・ヨンガクに接触する。しかし暴露本を出版しようとするパク・ヨンガクをなかなか止められないキム部長は大統領から激しい叱責を受ける。さらに、かつて後輩だった大統領警護室長も、キム部長に横暴な態度をとるようになり……。

解説

韓国大統領直属の諜報機関である韓国中央情報部(通称:KCIA)。
このKCIAは南山(ナムサン)にあり、通称“南山”と呼ばれていました。
つまり、この映画のタイトルにある“南山の部長たち”とは、KCIAの部長のこと。

この映画には、南山の部長が二人でてきます。
一人は、パク大統領の腐敗を世界に告発しようとした元KCIA部長のパク・ヨンガクです。クァク・ドウォンが演じています。
そしてもう一人は、イ・ビョンホン演じる主人公のキム・ギュピョン。
実在の事件を描いている本作ですが、少し史実とのアレンジが入っているようです。

キム・ギュピョン部長とパク・ヨンガクは、共にパク氏の指揮下で、クーデターのために立ち上がった仲として描かれています。
(このクーデターは、1961年に起こった5・16軍事クーデターのことでしょう。)

しかし、クーデーターを経て軍事政権を組織し、やがて大統領となったパク氏は、いつの日か、国のためではなく、自らの権力と利益に固執する独裁者となっていきました。
その振る舞いは、まさに究極のパワーハラスメント。自らに従わないものは権力の中枢から遠ざけ、左遷したり。そして他の側近に「意味はわかるな?」と言外に殺害を命じたりもするのです。

かつてKCIAの部長だったパク・ヨンガクは、キム部長が計画した作戦によって殺害されます。
そして、キム部長は大統領からの度重なるパワハラに苛まれ、かつての同志だったパク・ヨンガクを殺さざるを得ないという境遇に苦しみ、かつての理想と現実の落差に思い詰めるようになります。
やがて、大統領が自分を遠ざけようとしていることを知り、決意を固めます。

そして、1979年10月26日。大統領暗殺事件が発生するのです。。。

大統領や警護室長への怒り、KCIA部長という大統領腹心の部下としてのプライドと嫉妬、愛国心、大統領への忠誠心、友人を殺したという精神的動揺、それらがキム部長の中で渾然一体となり、事件に発展したように映画内では描かれています。
イ・ビョンヒョンは、我慢に我慢を重ね、精神的に追い込まれ、最後に爆発するキム部長の懊悩と哀切を見事に表現しています。そのキム部長の行動の理由が、もっともなものだと思えるのです。

朴正煕と大統領警護室長の車智澈(チャ・ジチョル)が殺害された朴正煕暗殺事件は、10.26クーデターとも言われているそう。
クーデターで自らの地位を確立した者は、クーデターでその地位から追い落とされるのかもしれません。

実際の事件を元にしているだけあり、濃密な人間ドラマである本作。
韓国で2020年の興行収入第1位を記録したことにも納得です。1979年の出来事だけあって、この事件をリアルタイムで経験した50代以上の人たちは、事件に関する記憶をまだ抱えているのでしょうね。。。

作品情報

『KCIA 南山の部長たち』(114分/韓国/2019年)
原題:남산의 부장들
英題:The Man Standing Next
公開:2021年1月22日
配給:クロックワークス
劇場:シネマート新宿ほか全国にて
原作:金忠植『実録KCIA―「南山と呼ばれた男たち」』
監督・脚本:ウ・ミンホ
脚本:イ・ジミン
音楽:チョ・ヨンウク
出演:イ・ビョンホン/イ・ソンミン/クァク・ドウォン/イ・ヒジュン/キム・ソジン
Official Website:http://klockworx-asia.com/kcia/

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