【映画レビュー】フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 / The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊(オリジナル・サウンドトラック)

ウェス・アンダーソン監督第10作となる『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は、ウェス・アンダーソンらしさが最初から最後まで、作品の細部までに詰め込まれた一作。

その長いタイトルから、何重もの入れ子構造、そして多数の名優たちのユーモアと気品あふれる演出まで……。
構成は複雑なのですが、その構造をきちんと理解していなくても、一つひとつのシーンを見ているだけで眼福を感じることができます。

どのエピソードも最高なのですが、やっぱり特筆すべきは囚人画家のベニチオ・デル・トロと看守のレア・セドゥをめぐるエピソードでしょうか。
いやいや、若き革命家のティモシー・シャラメとベテランジャーナリスト、フランシス・マクドーマンドのエピソードも捨てがたいか……。

どのエピソードも魅力たっぷりで、選べないというのが正直なところかもしれません。

STORY

アメリカの新聞「カンザス・イブニング・サン」の別冊で、フランスに編集部を構える雑誌「フレンチ・ディスパッチ」。この雑誌では、名物編集長のアーサー・ハウイッツァー・Jr.が、一癖も二癖もある記者たちを集め、国際問題からアート、美食、ファッションなど、さまざまな情報を掲載している。ある日、仕事中に編集長が突然死亡してしまう……。記者たちはそれぞれに最高の記事をあげ、編集長の追悼号にして最後の一冊を作り上げる……。

解説

ウェス・アンダーソンが高校生の頃からハマっていた雑誌「ザ・ニューヨーカー」と、その編集長であるハロルド・ロス、ウィリアム・ショーンにインスパイアされて作り上げた本作。
アメリカのカンザスの地方新聞「カンザス・イヴニング・サン」の別冊雑誌であり、フランスの架空の街・アンニュイ=シュール=ブラゼに居を構える雑誌編集部の名物編集長と、彼が集めた名物記者たちの渾身の記事を映像化した物語です。

皆から愛されていた名物編集長アーサー・ハウイッツァー・Jr.が仕事中に心臓麻痺で急死し、彼の遺言により、最新号を最終巻として、雑誌「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」の廃刊が決定します。そして、編集長が敬愛していた記者たちがそれぞれに、渾身の記事を持ち寄り、編集長の追悼号を作り上げるのです。

そこで描かれるのは1つのレポートと3つのストーリー。

自転車レポーター

オーウェン・ウィルソン演じる記者エルブサン・サゼラックが、編集部があるアンニュイ=シュール=ブラゼの街を自転車でめぐり、ガイドします。

序章というにふさわしく、アンニュイ=シュール=ブラゼのことがよくわかり、かつ作品のトーンを観客に知らせてくれる、軽やかなパートです。

確固たる(コンクリートの)名作

ティルダ・スウィントン演じる美術界の裏も表も知り尽くす記者J.K.L.ベレンセンによる、画家(ベニチオ・デル・トロ)とモデル(レア・セドゥ)、さらにあやしい美術商(エイドリアン・ブロディ)が織りなす物語。
精神を病み、殺人を犯して服役した画家と、美しくも厳しい看守、そして美術商が、それぞれの思惑と衝動で素晴らしい傑作を作り出していきます。レア・セドゥ、最高です。

宣誓書の改訂

フランシス・マクドーマンドが学生運動を取材する記者ルシンダ・クレメンツを演じ、ティモシー・シャラメが若き革命家を演じています。

この章は、1968年5月に起きたパリ5月革命と、この運動を取材していた「ザ・ニューヨーカー」のジャーナリスト、メイヴィス・ギャラントをモデルにしているのだそう。

若さと愚かさ、恋と革命、情熱と諦念……。それぞれが複雑にからみ合った、ある意味、劇的なドラマです。

警察署長の食事室

最後に来るのは、ジェフリー・ライトが演じる記者ローバック・ライトが、アンニュイ警察署長お抱えの天才シェフの料理を取材しに警察署を訪れた際に起きた誘拐事件を描く物語。テレビのトークショーでローバック・ライトが事件の顛末を語るという体で、実写とアニメーションを織り交ぜながら事件の様子が描かれていきます。

ウェス・アンダーソンらしさと俳優陣の完璧な演技に釘付けに

完璧な構図と素晴らしい絵と音と演出のコンビネーションで始める映画のファーストシーンから、ウェス・アンダーソンらしさがたっぷり詰まった本作。
クセの強い俳優陣も、監督の手にかかれば作品を彩る素材(それもとても極上な)の一つとなってしまいます。

この作品を観た後は、気取らないビストロで極上のコース料理を味わったような気分になれるはず。
このビストロ、シェフが凄腕なのはもちろん、パティシエからソムリエから給仕に至るまで手練れが揃い、シェフの料理に自分なりの味付けを加えています。そしてそれがすべて、絶妙なマリアージュを見せているのです。

この極上のコース料理、ぜひとも劇場の素晴らしい環境で堪能していただきたいと思います。

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作品情報

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(108分/アメリカ/2021年)
原題:THE FRENCH DISPATCH of The Liberty, Kansas Evening Sun
公開:2022年1月28日
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
劇場:全国にて
原案:ヒューゴ・ギネス
製作総指揮・原案:ロマン・コッポラ
原案・製作・監督・脚本:ウェス・アンダーソン
音楽:アレクサンドル・デスプラ
原案・出演:ジェイソン・シュワルツマン
出演:ベニチオ・デル・トロエイドリアン・ブロディティルダ・スウィントンレア・セドゥフランシス・マクドーマンドティモシー・シャラメ/リナ・クードリ/ジェフリー・ライトマチュー・アマルリック/スティーブ・パーク//ビル・マーレイオーウェン・ウィルソンクリストフ・ヴァルツエドワード・ノートンアンジェリカ・ヒューストングリフィン・ダンヴァンサン・マケーニュダミアン・ボナールイポリット・ジラルドドゥニ・メノーシェギヨーム・ガリエンヌリーヴ・シュレイバーエリザベス・モスセシル・ドゥ・フランスシアーシャ・ローナンヘンリー・ウィンクラーボブ・バラバンロイス・スミストニー・レヴォロリ
Official Website:https://searchlightpictures.jp/movie/french_dispatch.html

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