【映画レビュー】ステージ・マザー / Stage Mother
ジャッキー・ウィーヴァー演じる敬虔なクリスチャンの女性が、世界有数のLGBTQ+タウン、サンフランシスコのカストロ・ストリートでドラァグクイーンたちと一緒にゲイバーを経営することとなる姿を描いた映画『ステージ・マザー』。
このログラインからは、テキサスの田舎の保守的な女性とサンフランシスコのドラァグクイーンという正反対の人々の出会いと摩擦から起こる出来事を描いたコメディかと思ってしまいがちですが、さにあらず。
この映画は、一人の母親が過去を悔やみ、母として生き直していく姿を真摯に描いたドラマなのです。
まさに“マザー”と呼ぶにふさわしいその佇まいと歌声に、涙が止まりませんでした……。
<STORY>
サンフランシスコに住む息子・リッキーが薬物過剰摂取で急死し、メイベリンはテキサスからサンフランシスコへ向かう。ゲイでドラァグクイーンのリッキーを理解できず、メイベリンは彼と疎遠になっていたままだったのだ。リッキーのパートナーであるネイサンと会った彼女は、リッキーの遺したゲイバーの相続権が自分にあることを知る。メイベリンはリッキーの親友のシエナの元に居候しながら、経営の傾いたゲイバーを再建することに……。
<解説>
ゲイであることを自分たちが受け入れなかった故に、家出した息子、リッキー。
そのリッキーが薬物の過剰摂取で急死してしまったことを受け、リッキーが暮らしていたサンフランシスコに向ったメイベリン。
彼女はサンフランシスコの地で、初めてリッキーが生きてきた世界を知るのです。
最初は荘厳であるべき葬儀でさえミュージカル調に歌い踊って陽気に騒ぐドラァグクイーンたちに嫌悪感を抱きもしたメイベリン。
しかし、リッキーが生きてきた世界、リッキーが愛してきた人々と時間を過ごすうちに、これまで自分たちが認めようとしなかっただけで、そこにも素晴らしい人々がいて、懸命に生きていることに気づくのです。
そして、他者の性的嗜好や性自認を問題視し、介入しようとしていた自分達の価値観が間違っているということにも……。
そして、自分がリッキーに与えられなかった愛を、サンフランシスコの娘たちに与えていきます。
リッキーの親友である女性・シエナの子育てを手伝い、彼女が男性からひどい目に遭わないように守ります。
ドラッグをやめられない子のそばに寄り添い、彼女が薬物断ちできるよう力を貸します。
母と疎遠になっている子のために、トランスジェンダーの娘を受け入れられない彼女の母親に会いに行き、リッキーを理解しようとしないでいたうちに最愛の子どもを亡くしてしまった自分の経験を語ります。
そうやって、リッキーの愛した人たち、リッキーの愛した場所を守り、そこがこれからも人々から愛されていく場所になるように、力を尽くします。
最初はメイベリンのことを嫌っていたリッキーのパートナー・ネイサンも、やがてそんな彼女を認め、“マザー”として接してくれるように……。
かけがえのない息子を亡くしたことで、自分が変わる必要性に身をもって気付いたメイベリン。
彼女は努力して変わっていきます。
そして、彼女の変化が、彼女の周囲の世界を変えていくのです。
その変化が、サンフランシスコから、やがて保守的なテキサスにも広がっていけばよいのですが……。
ドラァグクイーンたちが見せるキッチュで華やかなショー、懐かしい名曲たち、毒々しくも美しいクイーンたち。
彼女たちのショーを楽しみながら、年配女性の変化の旅を描いた本作。
母の愛と、母を愛してきた息子の心に、思わず涙してしまう素敵な映画です。
『ステージ・マザー』(93分/カナダ/2020年)
原題:Stage Mother
公開:2021年2月26日
配給:リージェンツ
劇場:TOHOシネマズシャンテほか全国にて
製作総指揮・監督:トム・フィッツジェラルド
製作:J・トッド・ハリス/アン・クレメンツ
製作・脚本:ブラッド・ヘンニク
音楽:ワーレン・ロバート
出演:ジャッキー・ウィーヴァー/ルーシー・リュー/エイドリアン・グレニアー/マイア・テイラー/アリスター・マクドナルド/オスカー・モレノ/レノーア・ザン/ジャッキー・ビート/アンソニー・スコーディ/ヒュー・トンプソン/ジェイソン・ベッツ/カレム・マクドナルド/エルドン・ティーレ
Official Website:https://stage-mother.jp/
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