【映画レビュー】ソング・トゥ・ソング / Song to Song
オースティン・シティ・リミッツ・フェスティバル、サウス・バイ・サウスウエスト、ファンファンファン・フェストなどの三大ロックフェスが行われることでも有名なテキサス州オースティン。
このオースティンの地で、テレンス・マリック監督が音楽と自由に翻弄される男女の物語を描いたのが、映画『ソング・トゥ・ソング』です。
音楽業界の有名プロデューサーや、ミュージシャンとして世に出たい若者たちを主人公とした本作、フェスのバックステージで撮影が行われていたり、“パンクの女王”ことパティ・スミス、イギー・ポップ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー、ジョン・ライドンらのレジェンドが登場していたりするので、映画ファンだけでなく音楽ファンにとっても見逃せない一作となっています。
STORY
音楽の街として知られるオースティンで、ミュージシャンを目指すフェイはプロデューサーのクックと出会う。クックと付き合い始めたフェイは、音楽フェスのバックステージや業界のパーティーなど、派手な世界にどこか馴染めずにいた。そんな時、クックとフェイは売れないソングライターのBVと知り合い、フェイとBVは付き合い始めた。また、クックは貧しいウェイトレスのロンダと出会い、彼女を誘惑して付き合い始めるのだが……。
解説
『ツリー・オブ・ライフ』などの近年の作品において、いわゆる“物語”の形式ではなく、登場人物たちの視点からなる心象風景のような映像と独白で、ストーリーを語ってきたテレンス・マリック監督。
本作『ソング・トゥ・ソング』においても、ルーニー・マーラ演じるフェイ、ライアン・ゴズリング演じるBVを中心に、マイケル・ファスベンダー演じる音楽プロデューサーのクックに翻弄され、自分を見失っていく人々の姿が描かれています。
クックは、「失楽園」に出てくる悪魔のように描かれています。
音楽業界で成功した彼は、ミュージシャンを目指す若者にとっては、キャリアパスを与えてくれる先達のような存在。
そして、女性にとっては、自分の知らない華やかな世界を見せてくれる、リッチでハンサムな男性でもあります。
クックは彼らに、輝かしいキャリア、金銭的な成功、一般社会とはかけ離れた贅沢な生活の片鱗を見せ、それらをクックが自分に与えてくれるのではないかと錯覚させることで、彼らを支配していくのでした。
それに気づいて、すべてを捨てて彼の元から離れる選択をできるかどうかで、彼らの運命は大きく変わっていくのです……。
この『ソング・トゥ・ソング』は、音楽業界とその周辺で生きる人たちを主人公に、夢を実現したいと願う彼らの心のゆらぎを独白のように描いています。
その合間合間に、音楽業界で実際に成功し、ミュージシャンとしてその存在を世界に知られるパティ・スミスやイギー・ポップといったレジェンドたちのインタビューが挟まれているという構成もかなりユニーク。
特に、BVの元彼女役でリッキ・リーが想いを語るシーンなどもあり、ミュージシャンたちの心のあり方が(どこまでが用意された言葉かどこまでが彼らの心底から出た言葉かがわからない点も含めて)、一つのテーマとなっています。
人を魅了し、変えていく、華やかな世界。
そこで自分を保っていきていくには、運だけではなくすさまじい精神力が必要なのでしょう。そしてそこで成功した人々は、大いなる諦念を感じているのかもしれません。
テレンス・マリックは、そんな夢に向かっていく人、夢を実現した人、そして人の夢を操ろうとする人の心を、神のような俯瞰的な視点から描き出して見せました。
作品情報
『ソング・トゥ・ソング』(128分/アメリカ/2017年)
原題:Song to Song
公開:2020年12月25日
配給:AMGエンタテインメント
劇場:新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて
監督:テレンス・マリック
音楽:ローレン・マリー・ミクス
撮影:エマニュエル・ルベツキ
出演:ルーニー・マーラ/ライアン・ゴズリング/マイケル・ファスベンダー/ナタリー・ポートマン/ケイト・ブランシェット/ヴァル・キルマー/ベレニス・マーロウ/トム・スターリッジ/ホリー・ハンター/オースティン・アメリオ/リッキ・リー/イギー・ポップ/フローレンス・ウェルチ/パティ・スミス/ジョン・ライドン/レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
Official Website:http://songtosong.jp/
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