【映画レビュー】リング・ワンダリング
『アルビノの木』の金子雅和監督による映画『リング・ワンダリング』は、観終わった後でそのタイトルの意味について深く考えてしまう一作。
漫画家志望の青年と、偶然出会った少年と少女、絶滅したはずのニホンオオカミといなくなったシロ。
過去の世界を現在、そして未来に伝える“写真”と、一人の想像力が一つの世界を創り出す“漫画”を媒介に、人々の人生が交錯していく物語です。
観賞後、何度もその物語を反芻しては細部を味わいたくなる、そんな繊細で味わい深い物語でした。
STORY
漫画家志望の草介は、工事現場でバイトしながら作品を描いていた。猟師とニホンオオカミの戦いの物語を描こうとしていたが、絶滅したニホンオオカミが上手く描写できず悩んでいた。昼間のバイト中にオオカミのような古い頭蓋骨を見つけた彼は、残りの骨を探しに夜の工事現場へ忍びこむ。そこで草介は、逃げた犬を探すミドリと出会う。足を怪我した彼女を家に送った草介は、古い写真館でミドリの家族とおだやかなひと時を過ごすが……。
解説
金子雅和監督による本作は、日本という国、東京という街で、かつて生きていた人たち、かつて生きていた者たち、今はなくともかつてはそこにあったものを描いた一作です。
主人公の漫画家志望の青年・草介は、絶滅したニホンオオカミと猟師の対決を漫画で描こうとし、かつてそこで生きていた人と出会い、かつてそこにあった街に迷い込みます。
この映画が撮影されたのは、2020年。
東京オリンピックに向けて街が変わり続けていた時に、金子監督はこの物語を思いついたと言います。
日本、東京という土地が持つ歴史。そこに積み重なる記憶。
かつては自然の状態の中で、寄り添いあって生きていた人々が、自然を開墾し、街が生まれていく……。
森は切り拓かれ、そこに生きていた動物たちはいなくなっていく。
戦争や自然災害で、そこにあった家々は焼けたり、なくなったり。
でもまたそこには街ができ、人々は生きていく。
かつてそこにあった人やもの、街の記憶は、断片的にしか残らない……。
ニホンオオカミは、まさにその象徴のような存在として描かれています。
生きている写真は日本に1枚も残っておらず、日本国内に現在残っている剥製も3点のみというニホンオオカミ。
そのニホンオオカミを追い求めることで、主人公の草介は、かつてそこにあった世界を彷徨することになるのです。
ひとつの土地で輪形彷徨を繰り返す我々は、行き先を見失っているのでしょうか……。
作品情報
『リング・ワンダリング』(103分/日本/2021年)
公開:2022年2月19日
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
劇場:渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国にて
監督・編集・企画・プロデュース・脚本:金子雅和
脚本:吉村元希
音楽:富山優子
出演:笠松将/阿部純子/安田顕/片岡礼子/品川徹/伊藤駿太/横山美智代/古屋隆太/増田修一朗/細井学/友秋/石本政晶/桜まゆみ/川綱治加来/納葉/大宮将司/平沼誠士/伊藤ひろし/ボブ鈴木/比佐仁/山下徳久/田中要次/長谷川初範
Official Website:https://ringwandering.com/
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