【映画レビュー】マ・レイニーのブラックボトム / Ma Rainey’s Black Bottom
チャドウィック・ボーズマンの遺作であり、チャドウィックの若き日を支えたデンゼル・ワシントンがプロデュースを務めたNetflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』。
“ブルースの母”と呼ばれたシンガー、マ・レイニーのレコーディングの日に、レコーディングスタジオの中だけで起こる1日の物語を登場人物の会話を中心に描いています。
その場に登場するのはマ・レイニーとその取り巻き、バンドメンバー、レコード会社スタッフたちのみ。
彼らの会話を通して、1927年当時にアフリカ系アメリカ人が置かれていた現状や、黒人差別の実態、彼らの哀しみと、断絶の模様が明かされます。
誰もが、黒人の地位を向上させたいと思っているのに、その差別の根深さゆえに誰もがすれ違ってしまう……。
“ブラック・ライヴズ・マター”が叫ばれた2020年。アメリカ社会の根底には、未だ黒人差別という問題があります。
本作『マ・レイニーのブラックボトム』も、ブラック・ライヴズ・マターを強く訴えています。
<STORY>
1927年、シカゴ。南部で“ブルースの母”と呼ばれる歌手、マ・レイニーのレコーディングが行われる日。バンドメンバーは時間どおりにスタジオ入りし、マ・レイニーを待っていた。若いトランペット奏者のレヴィーも、新しい靴を履いてごきげんだ。マ・レイニーは遅れてきたうえに、コーラがなければ歌わない、自分の甥に口上をさせろとワガママざんまい。白人スタッフたちは苦々しく思いながらも、マ・レイニーの発言に従うが……。
<解説>
本作には、二人の“戦う黒人”が登場します。
ひとりは、ヴィオラ・デイヴィス演じるマ・レイニー。ブルースの母と呼ばれる、人気のシンガー。
その歌声で南部の黒人を魅了し、白人の経営するレコード会社からレコードをリリースしています。
既に人気シンガーで大スターでもある彼女は、レコード会社のスタッフやバンドメンバーにワガママざんまい。
傲慢な発言を繰り返しますが、誰も彼女に逆らえず、白人のスタッフたちも苦々しい顔をしながらも、彼女の言うことに従っています。
バンドメンバーにとっては、彼女の命令は絶対。勝手なアレンジなど許されません。
彼女は、自分の存在と実力を誇示し、傲慢な発言を続けることで、自分の立ち位置や影響力を世間に知らしめて居るのです。
それは、彼女なりの戦い方です。ただそれは、彼女と、彼女の親族や愛する人のための戦いでしかないのですが。
そして、もうひとりの“戦う黒人”は、チャドウィック・ボーズマン演じる若きトランペット奏者・レヴィーです。
彼は、一見チャラチャラと見える、白人に媚びを売る黒人のように見えます。
トランペット奏者として名をあげることをを目指し、伝統的なブルースに派手なリズムを持ち込み新しい潮流を作り出そうという野心を持っています。
そのために曲を書いて、レコード会社に持ち込んでいます。白人に媚びへつらってでも、成功しようとしているのです。
そんなチャラチャラとしたレヴィーは、バンドメンバーからも軽く見られています。
楽屋で遅刻しているマ・レヴィーの到着を待つ間、行動を非難するメンバーたちに、レヴィーは自分の過去を話し始めます。
それは、白人に母親をレイプされ、父親を殺されたという壮絶なもの。
レヴィーは心の底から白人に怒りと憎しみを抱いていました。しかし、それを表には出さず、白人を利用することでマのようにのしあがろうとしていたのです。。。
マもレヴィーも、白人のことをまったく信用せず、利用してやろうとしています。彼らは、白人を憎んでいると言ってもいいでしょう。
そして、それぞれに白人と戦っています。
白人を憎むあまりに、彼らの戦いは先鋭化し、自分のことしか見えなくなっているのです。
本来なら共闘の可能性もあるはずのマとレヴィー。
彼らはそれぞれの信念にのみ基づいて戦っているため、自分(とその身内)以外の利益は考えていません。
それだけ、彼らが受けてきた屈辱は激しく、彼らの絶望は深いと言うことなのでしょう。仲間のことも信用できなくなるくらいに。
そしてその結果、黒人同士の連携もなく、悲劇が起こってしまうのです。。。
本作『マ・レイニーのブラックボトム』は、ある一日を舞台に、シカゴの音楽業界の酷薄さ、黒人の絶望と断絶を描いています。
黒人の魂の叫びであるブルースがやがて白人に収奪され、その文化が盗用されていく……。
皮肉に満ちたラストシーンに流れるポップな音楽が、黒人たちの惨めさや悔しさが感じられるはずです。
※本作は第93回アカデミー賞で主演男優賞(チャドウィック・ボーズマン)、主演女優賞(ヴィオラ・デイヴィス)、美術賞、衣装デザイン賞(アン・ロス)、メイクアップ&ヘアスタイリング賞(セルジオ・ロペス=リベラ、ミア・ニール、ジャミカ・ウィルソン)の5部門にノミネートされました。
本命と言われていたチャドウィック・ボーズマンは残念なことに受賞を逃しましたが、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の二部門で見事オスカーを獲得しました。
『マ・レイニーのブラックボトム』(94分/アメリカ/2020年)
原作:オーガスト・ウィルソン
監督:ジョージ・C・ウルフ
製作:トッド・ブラック/デンゼル・ワシントン/ダニー・ウルフ
製作総指揮:コンスタンザ・ロメロ
脚本:ルーベン・サンチャゴ=ハドソン
音楽:ブランフォード・マルサリス
衣装デザイン:アン・ロス
メイク:セルジオ・ロペス=リベラ/ミア・ニール/ジャミカ・ウィルソン
プロダクション・デザイン:マーク・リッカー
セット・デコレーション:カレン・オハラ/ダイアナ・スロートン
出演:ヴィオラ・デイヴィス/チャドウィック・ボーズマン/グリン・ターマン/コールマン・ドミンゴ/マイケル・ポッツ/ジョニー・コイン/テイラー・ペイジ/ジェレミー・シェイモス/ドゥシャン・ブラウン/ジョシュア・ハート
Official Website:https://www.netflix.com/title/81100780
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Imports (2016-05-26)
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Document (2002-03-25T00:00:01Z)
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