渇き。
音響のいい環境で映画を観ると、音の響きが空気の振動となって伝わってくるものです。
試写室という抜群の音響で、しかも最前列で観させていただいた映画『渇き。』。
いやー、観終わった後、そのリアルな音と振動に、観ている間中、自分も鈍器で殴られていたかのような感覚を覚え、なんだか頭が痛くなってしまいました。
そう言えば、中島哲也監督の前作『告白』を見た後もこんな感じだったな…。
“良薬は口に苦し”と言うけれど、この映画『渇き。』はまさに劇薬。
効く人には効くけれど、副作用も強そうな、用法用量を間違えると事故を起こしちゃいそうな、そんな刺激的な作品です。
<STORY>
元刑事の藤島昭和は、大量殺人を目撃し警察に監視されていた。そんな藤島に元妻から高校生の娘・加奈子が行方不明だという連絡が。加奈子の部屋で覚せい剤や注射針を発見した藤島は、自力で加奈子を探すことに。加奈子がかかっていた精神科医や友人たちを訪ねるうち、藤島は自分が知らなかった加奈子の一面を知っていく。三年前、加奈子は同級生の緒方という恋人がいたのだが、彼が自殺したことをきっかけに変わっていったらしく…。
<Cheeseの解説>
深町秋生の小説「果てしなき渇き」を中島哲也監督が映画化した本作。
役所広司演じる主人公・藤島の娘、加奈子が失踪し、彼女の行方を追う藤島が、加奈子の隠された本当の姿を知っていく、という物語です。
高校生の少女ではあるけれども、まさに“ファム・ファタール”と呼ぶにふさわしい加奈子を演じるのは、これが映画初出演になるモデル出身の小松菜奈。
同級生を男娼のように貶めたり麻薬漬けにしたり、何を考えているのかわからないけれど、なんだか軽やかで楽しそうで空虚な笑い声を響かせる加奈子を、ある意味天真爛漫に、ある意味お人形のように演じています。
何も知らずに別居している父親からは、反抗的で何を考えているかわからない、そら恐ろしい娘。
同居している母親からは、手はかからないけれども、背後に大きな秘密を抱えているような不気味な娘。
気の弱い同級生からは、明るく親切で友だちも多い、憧れの存在。
裏社会の大人たちからは、軽さと現金さを持ち合わせた、今どきの女子高生。
見る人の視点によって、様々な魅力的な一面を見せる加奈子は、まさに空虚なお人形です。
でも、そのお人形をじーっと見ていると、空虚な彼女の奥にある“深淵”が覗き返してくるのです。
彼女を通して見る“深淵”が、周囲の人間の持つ“闇”をあぶり出し、周囲の人間はどんどんと狂っていく…。
そんなこの映画『渇き。』ですが、加奈子の闇に当てられても狂わず、自分をしっかりと持ったままの人間もいます。
その代表的な存在が、妻夫木聡演じる浅井と、オダギリジョー演じる愛川という二人の刑事。
加奈子に照らし出されるまでもなく、既に狂ってしまっているこの二人は、加奈子が引っ掻きました藤島の世界を、さらに引っ掻き回す狂気の存在。
少女の闇を体現する加奈子に対し、世間の男の闇を体現する存在と言えるでしょう。
いやー、それにしても、中島哲也監督の手に掛かると、ポップな曲やファッションも独特な色合いを帯びますね。
でんぱ組.incの「でんでんぱっしょん」がこんなに恐ろしい曲に感じられるとは…。
まだあまりAKB48が一般に膾炙していない頃、『告白』の中で流れたPVがとても恐ろしく感じられ、AKB48の曲自体を恐ろしく感じてしまったことを思い出しました。
『渇き。』(118分/日本/2014年)
公開:2014年6月27日
配給:ギャガ
劇場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国にて
原作:深町秋生
監督・脚本:中島哲也
脚本:門間宣裕/唯野未歩子
出演:役所広司/小松菜奈/妻夫木聡/清水尋也/二階堂ふみ/橋本愛/國村隼/黒沢あすか/青木崇高/オダギリジョー/中谷美紀/葉山奨之/康芳夫/高杉真宙/森川葵/星野仁
公式HP:http://kawaki.gaga.ne.jp/
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