【映画レビュー】愛のコリーダ 修復版 / L’Empire des sens
1976年に大島渚監督が阿部定事件を描いた映画『愛のコリーダ』。
日本で撮影したフィルムをフランスで編集し、日本に逆輸入したという日仏合作映画です。
この作品がブラー処理、色調整、レストア作業などの修正を行い、公開から45年の時を経てデジタルでよみがえったのが、『愛のコリーダ 修復版』です。
2000年にも『愛のコリーダ2000』として公開され、製作から何年経っても、話題性とともに人を惹きつけるこの作品。
阿部定という人間の底知れぬ魅力、そして大島渚監督のこの作品にかける果てしない熱量が、この作品をこれだけの長い間、人を惹きつけるものにしています。
STORY
昭和11年。中野の料亭・吉田屋で仲居として働き始めた阿部定は、主人の吉蔵と出会う。すぐに惹かれあった二人は体を重ねるが、やがてその関係は女将に知られるように。駆け落ちして吉蔵と吉田屋を出た定は荒川区尾久の待合「満佐喜」で、吉蔵と昼夜なく体を求め合うのだった。やがて定は吉蔵の首を絞めながらの性行為に、これまでにない快感を覚えるようになる。吉蔵の首を絞めながら彼を求めるうち、定は吉蔵を殺してしまうのだが……。
解説
1936年5月18日に発生し、当時の日本を震撼させた阿部定事件。
芸妓や娼婦として生きてきた阿部定が、駆け落ちした料理屋の主人・石田吉蔵を痴情の果てに殺し、その性器を切り取ったこの事件は、当時も今も、人々の心を引きつけてやみません。
大島渚監督による1976年の映画『愛のコリーダ』は、その定の情愛を男女のセックスシーンもそのままに、生々しく描き出しています。
定を演じた松田英子と吉蔵を演じた藤竜也は撮影時には実際に本番を行なっているという点でもセンセーションを巻き起こしました。
上映時には修正が入っていましたが、ヘアや陰部も写っている本作が、1976年という時代にいかに衝撃だったか、想像に難くありません。
この作品は「芸術か?ワイセツか?」と話題を呼び、裁判にもなりました。
この作品で描かれているのは、性で強く結びついた男女の道行きの果てです。
定のセックスシーンは、快楽よりも何かもっと別のものを求めているようです。
愛を求めているのか、セックスを求めているのか、セックスイコール愛なのか。
本作において、定にとってはセックス=愛として描かれています。
吉蔵にとっては、セックスは必ずしも愛ではありません。セックスはむしろ自己証明。
彼の定への愛は、その包容力なのかもしれません。定が求めるものであればなんでも差し出す。自分の体でも、命でも……。
「定吉二人キリ」
自らの愛を貫いた阿部定の愛の熱量を映画化するには、凄まじいエネルギーが必要だったのでしょう。
そのエネルギー、この熱量こそが、この映画を色褪せぬ名作へと昇華させたのだと思います。
作品情報
『愛のコリーダ 修復版』(108分/日本・フランス/1976年)
仏題:L’Empire des sens
英題:In the Realm of the Senses
公開:2021年4月30日
日本初公開:1976年10月16日
配給:アンプラグド
劇場:新宿武蔵野館ほかにて
監督・脚本:大島渚
製作総指揮:アナトール・ドーマン
製作:若松孝二
助監督:崔洋一
音楽:三木稔
出演:藤竜也/松田英子/中島葵/芹明香/阿部マリ子/三星東美/殿山泰司/藤ひろ子/白石奈緒美/青木真知子/東祐里子/安田清美/南黎/堀小美吉/岡田京子/松廼家喜久平/松井康子/九重京司/富山加津江/福原ひとみ/野田真吉/小林加奈枝/小山明子
Official Website:https://oshima2021.com/
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