【映画レビュー】美しい星
三島由紀夫の原作小説「美しい星」を吉田大八監督が映画化した本作『美しい星』。
1962年に書かれた原作を、50年の時を経た今、現代風に設定を変更し、見事に映画化しています。
原作小説で宇宙人となってしまった大杉一家の父親・重一郎は埼玉県飯能市に暮らす高等遊民で52歳。
現代ではあまりいないであろう“高等遊民”という設定を、“お天気キャスター”に変更し、リリー・フランキーが演じています。
実は、撮影時、吉田大八監督もリリー・フランキーも52歳だったそう。
原作の重みのある重一郎と比較してみると、50年という時間の重みというか、50年で変わってしまった日本人のあり方にも、思いを馳せてしまいます。
STORY
お天気キャスターの大杉重一郎は、ある日「自分が火星人である」ということに気づく。時を同じくして、重一郎の長男・一雄は水星人、長女の暁子は金星人であることに気づくのだった。重一郎は担当番組中で地球の危機を語り、地球人たちに覚醒を促し、人気に。フリーターだった一雄は国会議員・鷹森紀一郎の秘書・黒木と出会い、黒木のもとで働くように。暁子は、同じく金星人だというミュージシャン・竹宮薫に運命を感じ、会いにいくが…。
解説
大学時代からこの映画に惹かれていたという吉田監督の30年来の念願叶って製作された本作。
地球環境の変化に危機感を抱く火星人、自分の美しさに気づき美の基準を正そうとする金星人、国家を牛耳る権力を得ようとする木星人、ネットワークビジネスで“美しい水”を広めようとする地球人かならる家族たちの物語を描いています。
水星人の父親・重一郎を演じるのはリリー・フランキー。そして、木星人の長男・一雄を亀梨和也が、金星人の長女・暁子を橋本愛が、地球人のままの母親・伊余子を中嶋朋子が演じています。
言ってみれば、この4人は突然に宇宙意識に目覚め、太陽系連合の一員として自分たちのできることから行動を始めた人物たち。
でも、世間一般の目で見れば、どこか行ってしまった人たちです。
そんな彼らに近づいてくるのが、参議院議員・鷹森紀一郎の秘書である黒木克己や、金星人を名乗るストリートミュージシャンの竹宮薫。
さらに、母親の伊余子にはネットワークビジネスのディストリビューターである丸山梓が近づいてきます。
宇宙人にしろ地球人にしろ、彼らはそれぞれが大杉一家の一人ひとりにある目的を持って近づき、それぞれの狙いを叶えようとします。
宇宙における大きな問題を解決する以前に、大杉家といい小さなコミュニティの内部にも、小さな問題はくすぶっているのです。。。
爆発的な人口増加、エネルギー問題、異常気象、原発、天変地異といった大きな社会問題は我々の頭上に常にありますが、小さな問題にそれぞれ頭を悩ませ、心を消費しているのが、我々現代人と言えるでしょう。
吉田大八監督は、初めてのSF映画である本作で、宇宙人をテーマとしながら人間という小さな存在が抱える問題を描き出しています。
311を経験した日本人にとって、“フクシマ”という固有名詞には、都道府県の一つである福島県が持っている以上の、多くの意味を持ちます。
この映画で大杉家は(作品中でははっきりとは明示されませんが)福島県に向かいます。そして、聖なる牛に乗ってある場所にたどりつくのです。
この映画のラストシーンは、原作にも存在しない吉田作品のオリジナル要素。
三島由紀夫の原作を現代日本に生きるの吉田監督流に解釈し、観客に提示しています。
我々は見たいものを見て、聞きたいものを聞く…。
彼らが見たものは、なんだったのでしょうか。
作品情報
『美しい星』(127分/日本/2017年)
公開:2017年5月26日
配給:ギャガ
劇場:全国にて
原作:三島由紀夫
監督・脚本:吉田大八
脚本:甲斐聖太郎
音楽:渡邊琢磨
出演:リリー・フランキー/亀梨和也/橋本愛/中嶋朋子/佐々木蔵之介/羽場裕一/春田純一/友利恵/若葉竜也/坂口辰平/藤原季節/赤間麻里子/樋井明日香/川島潤哉/武藤心平/板橋駿谷
Official Website:http://gaga.ne.jp/hoshi/
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