【映画レビュー】スキャンダル / Bombshell

スキャンダル [DVD]

2017年に世界各国で火がついた“Me Too”運動。
映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインら、多くの大物たちが行ってきたセクハラなどのハラスメントについて、この運動をきっかけに、これまで我慢を重ねてきた被害者たちが告発を始めました。

このムーブメントの中で製作されたのが、メディア王ルパート・マードックが経営するアメリカのテレビ局「FOXニュース」で2016年に起こったセクハラ騒動を描いた映画『スキャンダル』です。

シャーリーズ・セロンニコール・キッドマンマーゴット・ロビーという実力と人気を兼ね備えた女優たちが、弱い立場に立たされ続けてきた被害者たちの代弁者となった本作。
あなたが秘密保持契約を結んでしまったのなら、私たちが告発の声を上げる…。彼女たちのそんな決意が感じられる、弱い立場にある人たちを勇気付けてくれる一作です。

<STORY>
アメリカのニュース放送局・FOXニュースは視聴率NO.1を誇っていた。2016年、看板番組を持つ人気アンカーのメーガン・ケリーは、討論会時の発言が元で、大統領候補のドナルド・トランプからメディアを通して執拗なセクハラを受ける。キャスターを目指す27歳のケイラは、FOXニュースCEOのロジャー・エイルズに売り込みをかけていた。その頃、ベテランキャスターのグレッチェン・カールソンが、ロジャーによるセクハラを告発していた…。

<解説>
2016年、アメリカのニュース放送局・FOXニュースのキャスター、グレッチェン・カールソンがFOXニュースCEOのロジャー・エイルズをセクハラで告発しました。
最終的にロジャー・エイルズはCEOを退任し、グレッチェン・カールソンとFOXニュースは和解しますが、この映画ではそこにいたるまでの、FOXニュース内部にいる人たちの葛藤をリアリティたっぷりに描いています。

この映画では、重要なキャラクターとしてFOXニュース内部で働く3人の女性が出てきます。

この作品でプロデューサーも務めたシャーリーズ・セロンが演じるのは、全米で知られたニュースキャスターのメーガン・ケリー(44歳)。
この映画の中のメーガンは、ロジャー・エイルズのセクハラを知りつつ、のし上がってきた人物として描かれています。
大統領選前の討論会でキツめの質問をしたことをきっかけにドナルド・トランプから攻撃を受けるようになったメーガンは、自分をサポートしてくれるロジャーに、ある種の信頼をおいているようにも描かれています。

ニコール・キッドマンが演じたグレッチェン・カールソン(49歳)は、元ミス・アメリカでもある才色兼備な女性。女性出演者に美貌とセックスアピールを求めるFOXニュースの中で、“女性の内面の価値”をフィーチャーしようとノーメイクで出演するなど、少し異色なベテランキャスターです。
そんな彼女は、ロジャーの執拗なセクハラやパワハラなどの模様を録音するなど、密かに証拠を集め、ロジャーをセクハラで告発しました。
グレッチェン・カールソンは巨大メディアグループを相手にたった一人で立ち上がった、強さと信念を持った女性として描かれています。

そして、もう一人。マーゴット・ロビーが演じるケイラ・ポスピシル(27歳)は、FOXニュースに移籍してきた若いキャスター。野心と意欲はあるけれど、その美貌と実力を活かすチャンスに恵まれていません。
偶然に、ロジャー・エイルズに売り込みをかけるチャンスを得た彼女は、「君を抜擢することもできるが、そのためには君の忠誠心を見せて欲しい」と要求されます。
“忠誠心”とはなんなのか? そのレベルは受け取る人によって異なることもあるようですが、その意味するところは、“性的奉仕”。
世に出るチャンスを求めていたケイラは、そんなロジャーの言葉を受け入れてしまうのです。
ケイラは、若く美しく、プライドより野心が勝ってしまうような、最も弱い立場の存在として描かれています。

この三人の中で、メーガン・ケリーとグレッチェン・カールソンは実在の人物ですが、ケイラは架空の人物。
FOXニュースに勤めていた女性たちから集めた証言を総合し、作り上げたキャラクターがケイラです。多分、FOXニュースに在籍した女性たちの中には、彼女と同じような女性がたくさんいたのでしょう。
ロジャー・エイルズは彼女たちの野心と競争心を利用して、自分の欲望を満足させていたのです。

グレッチェンがロジャーを訴えたというニュースが広がり、FOXニュースには混乱が広がります。
社内の誰もがロジャーの罪は把握していながらも、その罪は見過ごされてきました。

しかし、ロジャーの罪が告発によって世間に知れ渡ることとなり、FOXニュースを代表するキャスターの一人であるメーガンは、なんらかの意見表明が求められるようになりました。

会社の立場とメインキャスターの座を守るために「ロジャーのセクハラは知らなかった」と言うのか。
暗黙の了解だった「ロジャー・エイルズは社内の女性たちにセクシャルハラスメントを行ってきた」という真実を認めるのか…。

やがて彼女は、重要な決断を下します。
そして、その決断が、世論にも影響を与えていくのです…。

この映画は、実在の人物たちを描いているものですが、彼女たちの許諾をとっていないそう。
グレッチェンは今後セクハラについて語らないという秘密保持契約をしたということなので、このセクハラ騒動について事実を語ること自体が許されないのです。

そういう意味では、メーガンやグレッチェンをはじめとする登場人物たちの言動は、フィクションとも言えます。
しかし、FOXニュース社内でセクハラは行われており、それが長年見過ごされてきたというのは、まぎれもない事実。

その事実を告発したグレッチェンの行動は、エンターテインメント業界で被害を受けてきた立場の弱い人たちにも勇気を与えたました。だからこそ、“Me Too”運動にもあれだけの人たちが賛同し、世界中に広がっていったのでしょう。

この騒動は一つのテレビ局で起こった問題ではありますが、同じような問題はエンターテインメント業界や、それ以外の世界でも蔓延していること。だから、誰かが声を上げて世間に知らせていかねばならない。グレッチェンのように勇気を出してくれた人を助け、世界をよりよく変えていけるように…。

 
 
アメリカの誰もが顔を知っているメーガン・ケリーを演じるために、シャーリーズ・セロンはコンタクトレンズを装着し、鼻、顎、エラ部分にピースを装着して撮影に臨んでいます。
この特殊メイクを担当したカズ・ヒロ(辻一弘)は第92回アカデミー賞でメイクアップ&スタイリング賞を受賞しました。

顔だけではなく、発声やしゃべり方も、メーガンそっくりにして、役になりきったシャーリーズ・セロン。

グレッチェンやメーガンが一石を投じ、“Me too”ムーブメントがさらに大きく広げたその波紋を、エンターテインメント作品として人々の記憶や映画史に刻み付けていこうとするその姿勢に、プロデューサーとして、女優として、そして一人の人間として、彼女の強い決意を感じることができました。

 
 
『スキャンダル』(109分/アメリカ=カナダ/2019年)
原題:Bombshell
公開:2020年2月21日
配給:ギャガ
劇場:TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて
監督・製作:ジェイ・ローチ
脚本・製作:チャールズ・ランドルフ
製作:A・J・ディックス/ベス・コノ/マーガレット・ライリー
特殊メイク:カズ・ヒロ
音楽:セオドア・シャピロ
製作・出演:シャーリーズ・セロン
出演:ニコール・キッドマンマーゴット・ロビージョン・リスゴーケイト・マッキノンコニー・ブリットンマーク・デュプラスマルコム・マクダウェルアシュリー・グリーンアーナ・オライリーアリソン・ジャネイ/リブ・ヒューソン/ブリジット・ランディ=ペイン/ロブ・ディレイニー/スティーブン・ルート/ロビン・ワイガート/エイミー・ランデッカーマーク・モーゼスナザニン・ボニアディ/ベン・ローソン/ジョシュ・ローソン/ブルック・スミスジェニファー・モリソンアリス・イヴP・J・バーンマデリーン・ジーマ
Official Website:https://gaga.ne.jp/scandal/

 

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