【映画レビュー】ユリゴコロ
熊澤尚人というと、どうしても『君にとどけ』のイメージが強く、爽やかな青春映画を得意とする監督というイメージがあったのですが、この『ユリゴコロ』を見てその評価が変わりました。
青春映画を得意とする、というより、人の心の動きを繊細にとらえ、映像でその微細な動きを表現することができる監督なのだと…。
この『ユリゴコロ』、主人公の一人は“人を殺さずにいられない”という生まれついてのシリアル・キラーの話なのですが、そのシリアル・キラーの精神を繊細に描き、観客が思わず助けてあげたくなってしまうような暗い魅力を持ったキャラクターとして描いています。
そんなシリアル・キラー役に挑んだ吉高由里子、そして彼女に人生を左右される二人の男を演じた松坂桃李と松山ケンイチ、さらに彼女に殺されるみつ子を演じた佐津川愛美、4人の俳優たちの演技にも見張りました。
今名前を挙げた彼らにとって、この作品は彼らのキャリアの転換点となるような、そんなパワーを持ったサスペンス映画に仕上がっています。
<STORY>
カフェを経営している亮介の婚約者で仕事のパートナーでもある千絵が失踪してしまった。亮介はガンとなった父親の看病もあり、実家とカフェを往復する日々を送っていた。ある日亮介は実家の父の荷物の中から「ユリゴコロ」と書かれたノートを発見する。そこには、人を殺さずにいられないという美紗子という女性の手記が書かれていた。幼い頃から平気で人を殺してきたことが書かれている美紗子の手記を、亮介は憑かれたように読み進めていく…。
<解説>
この映画の主人公となるのは、山奥でカフェを経営する亮介。
彼の毎日は、父親のガンが発覚したことで変わり始めます。
看病に訪れた実家で、父の書斎から「ユリゴコロ」と書かれたノートを発見し、そのノートに書かれた殺人鬼の手記に夢中になっていきます。
さらに、婚約者の千絵が失踪し、かつて千絵の同僚だったという細谷という女性が亮介を訪ねてきて、千絵の捜索を手伝ってくれるようになるのですが…。
ノートの中の美紗子は、幼い頃から心の“よりどころ”ならぬ「ユリゴコロ」を求めて、殺人衝動を何度もの殺人で開放していきます。
幼稚園の頃の幼なじみ、中学生の頃に出会った小学生男子、専門学校で出会った自傷願望のあるみつ子、見習いコックの頃に出会った料理人…。
数々の殺人を重ねながらも、捕まることもなく、ただ淡々と生きていくのです。
そんな美紗子は、生活の糧を得るために売春婦として生きている中で、洋介という男性と出会います。
彼との出会いで、彼女はユリゴコロを満たされたのか、殺人衝動を覚えないようになっていきます。
穏やかな洋介との時間を経て、彼女は変わっていくのです。。。
そんな美紗子とは反対に、亮介はノートに取り憑かれたようになり、自身の中にある凶暴性に目覚めていくのですが…。
沼田まほかるの同名小説を原作とする本作、かなり偶然に頼ったストーリー展開となっています。
とはいえ、だからこそそれが“運命”とも感じられるような物語と言えるでしょう。
熊澤尚人監督は抑えた演出とダークな色調で、一人の女性の魂の彷徨と成長、変化をじっくりと描き出しました。
そしてその監督の試みに、吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチら俳優たちが見事に応え、素晴らしい化学反応を見せてくれました。
『ユリゴコロ』(128分/日本/2017年)
公開:2017年9月23日
配給:東映、日活
劇場:全国にて
原作:沼田まほかる
監督・脚本・編集:熊澤尚人
製作:石田雄治
音楽:安川午朗
出演:吉高由里子/松坂桃李/松山ケンイチ/佐津川愛美/清野菜名/清原果耶/木村多江
Official Website:http://yurigokoro-movie.jp/
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