【映画レビュー】ヒトラーに盗られたうさぎ / Als Hitler das rosa Kaninchen stahl
絵本作家ジュディス・カーの実体験による絵本「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」。
ヒトラー政権の誕生にともない、一家でベルリンから亡命することとなり、大好きなぬいぐるみのももいろうさぎと離れることになった少女の物語です。
この絵本を映画化した映画『ヒトラーに盗られたうさぎ』では、ドイツを離れてスイス、フランス、イギリスへと亡命していくユダヤ人一家の姿を、10歳の少女の視点で描いています。
大好きなうさぎやお手伝いさんのハインピー、そしてお友だちたちと別れても、家族でいれば大丈夫。
言葉なんて、すぐにわかるようになるのだから。そして、時代は、いつか変わるのだから。
まっすぐに世界を見つめる聡明な少女の眼差しに、希望を感じられる一作です。
<STORY>
1932年、ユダヤ人の9歳の少女・アンナは、ベルリンからスイスへと移住することとなる。演劇評論家である父のアルトゥアはナチスを批判する文章を発表していたため、ナチス政権が誕生する前に亡命を決めたのだ。アンナは母のドロテア、兄のマックスとともにスイスに渡り、スイスの習慣に驚きながらも、友だちもでき楽しい生活を送れるようになってきた。しかし、スイスでは生活費を稼げないため、一家はフランスへの移住を決める……。
<解説>
アドルフ・ヒトラー率いるナチス党は1932年、ドイツの第一党となりました。
その後、1933年にヒトラーが首相となり、ナチス・ドイツはユダヤ人迫害など、歴史に残る蛮行を行なっていきます。
この映画『ヒトラーに盗られたうさぎ』では、そんなナチス・ドイツが隆盛する直前にドイツを離れることとなった、ユダヤ人家族の流転が描かれています。
ナチス党に批判的な評論を発表していたユダヤ人で演劇評論家の父親がナチスのある“リスト”に載っていると知らされた一家は、ベルリンから出ることを決意します。
大好きな桃色のうさぎのぬいぐるみや、大好きなお手伝いさんのハインピー、仲良しのユリウスおじさんと別れ、アンナはドイツを旅立つのです。うさぎやハインピーと、すぐにまた会えることを信じながら。
まず一家はベルリンから出て、スイスへ。
ドイツ語が公用語の一つであるスイスでは、アンナは特に言葉に困ることもなく友だちもすぐにできました。
女の子は教室の真ん中の通路を通ってはいけない、とか、女の子と男の子は仲良くしない、という、都会育ちのアンナには少し不思議なルールもありましたが、スイスでの日々は概ね楽しいものでした。
そのスイスで10歳の誕生日を迎えた日、アンナは父親からパリへ移ることを知らされます。
スイスで親友になった女の子に、アンナは「亡命者に別れはつきものなの」と別れを告げます。
ドイツを出た時とは違い、彼女は自分が亡命者であることや、亡命がどういうものであるのかをうっすら知りつつあるのです。
そして、フランス・パリにやってきました。
パリでの住居は、狭いアパルトマンでした。管理人は不気味で、隣人は意地悪。
ベルリンの広い家や、スイスののどかな雰囲気の家とは大違いの環境に放り込まれたのです。
フランス語のわからないアンナとマックスは、土地勘もないパリで貧しい暮らしに耐えながら、たくましく順応していきます。
やがて言葉も習得し、作文で賞をもらえるくらいに成長していきます。
しかし、またもや一家はイギリスへ引っ越すことになります。
でも、強くたくましくなったアンナの口から、泣き言は出ませんでした。
これから行くロンドンのことは全く知らないし、英語は全然わからない。
けれど「言葉はすぐにわかるようになる」と、アンナとマックスはまっすぐ前を見つめていました。
時代の波に翻弄されながらも、人生を強く歩んでいくアンナの姿からは、子どもの持つ強さや賢さが感じられます。
大人から見ると過酷に見える環境にあっても、そこに楽しみを見出し、成長の糧とする。それこそが、子どもの持つ素晴らしい能力と言えるでしょう。
「なんだってできるのよ。一緒にいればね」
この言葉は、原作者でありアンナのモデルである絵本作家ジュディス・カーの人生のモットーだそう。
家族と一緒に、困難に立ち向かい、人生を切りひらいてきた人ならではの、強さとしなやかさが感じられる言葉だと思います。
『ヒトラーに盗られたうさぎ』(119分/ドイツ/2019年)
原題:Als Hitler das rosa Kaninchen stahl
英題:When Hitler Stole Pink Rabbit
公開:2020年11月27日
配給:彩プロ
劇場:シネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開
原作:ジュディス・カー
監督・脚本:カロリーヌ・リンク
脚本:アナ・ブリュッゲマン
音楽:フォルカー・ベルテルマン
出演:リーヴァ・クリマロフスキ/オリヴァー・マスッチ/カーラ・ジュリ/マルノス・ホーマン/ウルスラ・ヴェルナー/ユストゥス・フォン・ドホナーニ/アン・ベンネント/ベンヤミン・サドラー
Official Website:https://pinkrabbit.ayapro.ne.jp/
評論社 (1980-03-20T00:00:01Z)
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