【映画レビュー】繕い裁つ人
母が洋裁をやっていたため、私は幼い頃ミシンの音に囲まれて育ちました。
布を裁つジョキジョキという音や、ミシンのリズミカルな音も好きだったなあ。
ボタンを集めたり、ファスナーを集めたり、チロルリボンを集めたりしていたっけ。。。
この映画『繕い裁つ人』は、そんな幸せな記憶を蘇らせてくれました。
着る人のことを思いながら、たった一人のために作られた洋服の、なんとぜいたくなことか。
身体にぴったり合う洋服を大事に着続けることの、なんと素敵なことか。
流行を追うのもいいけれど、“自分だけのスタイル”を確立してそれを貫くことこそ、一番のお洒落なのかもしれない。。。
ファストファッション全盛のこの時代、“断捨離”などと言って洋服を捨てることになんの抵抗もなくなってきていることの時代に、大切なことを思い出させてくれるような、素敵な一作です。
<STORY>
南洋裁店神戸の街を見下ろす坂の上にある。そこでは、二代目の店主・市江が先代が作った洋服の仕立て直しやサイズ直しをしている。新作は先代のデザインを流用し、知り合いの店に少しだけ作って卸しているだけだ。デパートの服飾担当をしている藤井は、南洋裁店の洋服に魅せられ、ブランド化を持ちかけていた。藤井は何度も何度も市江のところに出向くが、頑固ジジイのような市江は、いっこうにブランド化を承諾してくれない。
<解説>
『しあわせのパン』、『ぶどうのなみだ』の三島有紀子監督が生まれ故郷の関西を舞台に描いた映画『繕い裁つ人』。
北海道を舞台にした以前の二作品の作風とはまたひと味違う、自分の内面を真摯に見つめストイックに生きる女性職人の物語です。
主人公の市江を演じる中谷美紀は、まさにストイックな洋裁職人にぴったり。
祖母から受け継いだ足踏みミシンをリズミカルに踏みながら、やって来るお客さんたちが“一生着られる”洋服を繕い、裁ち続けています。
そんな彼女のもとに入れ替わり立ち替わりやってくるのは、近所に住む長年のお得意さんたち。
お母さんのワンピースをリフォームして自分のワンピースに作り直してもらおうとする女子高生や、夫にもらった布で洋服を仕立ててもらおうとする主婦、一年に一度の“夜会”のために一張羅を仕立て直してもらおうとする老紳士。
みんな、洋服に愛着を持ち、それを大切に着るために、市江のもとを訪れるのです。
そんな市江の作る洋服に惚れ込んだのは、百貨店で服飾担当をしている藤井くん。
彼はシーズンごとに新作を発表し、シーズンごとに新しい洋服を買ってもらおうとする立場。
自分が大好きな市江の洋服をブランド化して、百貨店で販売したいと考えています。
しかし、市江の腕やデザインに惚れ込んではいるものの、その姿勢の違いから、なかなかブランド化の承諾を得られないでいます。
やがて、市江と藤井は洋服に対するお互いの想いを知るようになります。
そして、自分のこだわりは大切にしつつ、新たな一歩を踏み出す勇気を得るのです。
こだわりはもちろん大切だけれど、他者と交流することによって素晴らしい化学反応が起こり、新たな道ができていくというのも、とても素敵だと思います。
“たった一人のためのこだわりの洋服”をテーマにしたこの映画、『しあわせのパン』や『ぶどうのなみだ』でも見ることができた三島有紀子監督のこだわりがたっぷりとつまっています。
神戸の街並み、市江が通う喫茶店や図書館などの美しい建築物、市江のアトリエにある洋裁道具の数々、そしてもちろん市江の作る洋服たち。
プロフェッショナルがこだわって仕事をしたものが集まって、とても素敵な世界を作り出しているのです。
職人たちのこだわりと思い、そして丁寧な仕事が詰まったものは、なんであれ、尊敬に値するものだと思います。
『繕い裁つ人』(104分/日本/2015年)
公開:2015年1月31日
配給:ギャガ
劇場:新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
原作:池辺葵
監督:三島有紀子
脚本:林民夫
出演:中谷美紀/三浦貴大/片桐はいり/黒木華/杉咲花/中尾ミエ/伊武雅刀/余貴美子/永野芽郁
Official Website:http://tsukuroi.gaga.ne.jp/
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