【映画レビュー】幸せをつかむ歌 ／ Ricki and the Flash

LAのロックバーのハウスバンド「リッキー＆ザ・フラッシュ」のボーカリスト、リッキーのもとに、数十年前に別れた元夫から電話が入る。娘のジュリーが夫に捨てられ、傷ついて家に出戻っているというのだ。かつてロックシンガーになるため家族を捨てて家を出たリッキーは、久しぶりに故郷のインディアナポリスに向かう。しかし娘のジュリーからは悪態をつかれ、結婚を予定しているという息子のジョシュからも結婚式に招待してもらえず…。

“Ricki and the Flash”という原題の映画『幸せをつかむ歌』。

メリル・ストリープが、かつて夢のために家族を捨てたロックシンガーのリッキーを演じています。
リッキーの現在は、ロサンゼルスの場末のロックバーのハウスバンド「リッキー＆ザ・フラッシュ」のボーカリスト。
破産してしまいお金もなく、狭い部屋で暮らす日々。
でも、ザ・フラッシュのギタリスト、グレッグとも付き合い、自分なりに充実した日々を送っていました。

そんな彼女のもとに、娘のジュリーが傷ついて引きこもっているので、助けに来て欲しいと元夫から連絡が入ります。
ケヴィン・クライン演じる元夫・ピートは、リッキーと別れてほとどなくしてオードラ・マクドナルド演じるモーリーンと再婚。
ゲーテッドシティでリッチな生活を送っています。
二人の息子と娘、そして妻・モーリーンは仲良く暮らしているのですが、モーリーンが父親の看病で実家に戻っている間に、リッチーの助けを借りに連絡してきたのでした。

ここでリッキーが突きつけられたのは、自分が捨てた家族たちの、今の現実。
多少の不幸はあるものの、基本的に不自由なく、家族の強い結びつきの中で幸せな暮らしを送っているのです。
自分が過去に捨てた現実が、大きな実を結んでいるのを見てしまったのでした。
そして、自分はどう努力してもそこには溶け込めず、異質な存在になっているのです…。
自分の道を信じて生きてきているものの、自分にはもう一つの道があったことに、初めて気づくのでした。

この作品で描かれるのは、リッキーの生き方。
自分の意思で選んだ道で、経済的には恵まれず、一見不幸にも見えるけれど、結局彼女にはこの道しかないのです。
だからこそ、この映画の原題は“Ricki and the Flash”なのだと思います。
彼女は、自分の生き方を、音楽を通して力強く子ども達にアピールしていきます。
そして、捨てられたことに傷ついていた子ども達は、母の生き方を理解し、初めてわかりあうのです。。。

脚本家のディアブロ・コディは、6人の孫のおばあちゃんでありながらもロックバンドのリードシンガーをつとめる自身の義母の生き方を見て、このストーリーを思いついたそう。
ジョナサン・デミ監督はこのロックな女性の物語を、見事にハートフルかつ男前な物語に仕立ててくれました。

ロックバンドのシンガーとして、歌声を披露し、ギターの演奏を見せるメリル・ストリープ、この作品のためにギターの猛特訓を積んだそう。
“The Flash”のメンバーとしてリック・スプリングフィールドやバーニー・ウォーレルら実力派ミュージシャンが顔を揃え、場末のロックバーのパッとしないバンドとは思えない、見事な演奏を聴かせてくれます。
40代以上の洋楽ファンなら、きっとぐっとくるはずです。