【映画レビュー】幸せの答え合わせ / Hope Gap
『Hope Gap』という原題のイギリス映画『幸せの答え合わせ』。
この”Hope Gap”は主人公たちが暮らす家の近所にある入り江の名前でもありますが、“希望の不均衡”、“希望の切れ目”といった意味にもとれる、ダブルミーニングになっています。
長年連れ添った夫婦の断絶と、バラバラになってしまった家族それぞれの葛藤を描く本作。
言葉が通じない絶望を溜め込んできた夫、夫の本当の気持ちを聞き出そうとするあまりに夫から言葉を奪い続けてきた妻、両親どちらの気持ちもわかるが故に辛い立場に立つ息子。
ここまでこじれてしまったからこそ、やっと真に分かり合えるようになった3人の家族の姿から、家族というものの難しさと、だからこそ貴重な“家族の愛”というものに気づかせてくれる一作です。
<STORY>
イギリス南部の海辺の町で暮らすグレースとエドワードの夫婦は、もうすぐ結婚29周年を迎えようとしていた。グレースは何も言わないエドワードに不満を抱いてはいたが、根本のところでは彼を愛していた。しかし、激しい口論をした翌日、エドワードは家を出て行ってしまう。エドワードはある女性と出会い、彼女と恋に落ちていたのだ。都会で暮らす息子のジェイミーは、エドワードの突然の家出に戸惑い落ち込む母を支えようとするが……。
<解説>
結婚29周年にして、いよいよ破局に至る夫婦を描くこの映画『幸せの答え合わせ』。
男と女の求める会話のすれ違いが、冒頭の夫婦二人の会話から、鮮やかに浮かび上がってきます。
妻「私たち幸せよね?」
夫「私たちは大丈夫だよ」
幸せかどうかを聞かれたにも関わらず、大丈夫かどうかを答える夫。
夫の本心を知りたいと強い言葉で尋ねる妻と、その言葉を「何を答えても間違っているように感じる」と負担に感じる夫。
詩を愛し、詩篇を編んでいる妻は、自らの気持ちを詩に託し、雄弁に語ります。
しかし、妻が雄弁であればあるほど、夫は萎縮し、自分の殻に閉じこもってしまったのです。
このすれ違いは夫婦に関してだけではありません。
母「彼(夫のエドワード)を救ったのは私」
息子「僕は救わないで」
母を尊敬し愛してはいるけれど、その愛を重荷にも感じている息子は、母と父のそれぞれに同情しています。気分的には、立ち位置は父の方に近いのです。
そんなふうに母親を負担に感じている息子ではあるけれど、父と母の間でメッセンジャーボーイとして走り回ります。
父のことも母のことも理解できるのは、世界でこの息子たった一人なのだから……。
時に言葉は人を傷つけます。意図していても、いなくても。
そして同様に、沈黙も人を傷つけるのです。
この映画の舞台になっているのは、イギリス南部イースト・サセックスのにある海辺の町・シーフォード。
草原が続いていると思ったら、急に断崖が広がり、その下にはイギリス海峡が広がっています。
いつまでも続いていると思われた陸地は、いつどこでなくなるかわからない……。
まさにそこは、この映画の舞台にふさわしい、絶望と希望の入り江でした。
『幸せの答え合わせ』(100分/イギリス/2018年)
原題:Hope Gap
公開:2021年6月4日
配給:キノシネマ
劇場:キノシネマみなとみらいほか全国にて順次公開
監督・脚本:ウィリアム・ニコルソン
音楽:アレックス・ヘッフェス
出演:アネット・ベニング/ビル・ナイ/ジョシュ・オコナー/アイーシャ・ハート/ライアン・マッケン/スティーヴン・ペイシー/ニコラス・バーンズ/ローズ・キーガン/ニコラス・ブレイン/サリー・ロジャース
Official Website:https://movie.kinocinema.jp/works/hopegap/