春との旅
仲代達矢、大滝秀治、淡島千景といった日本を代表する往年の名優たちが素晴らしい演技を見せる映画『春との旅』。
死ぬまでの人生を、誰と、どう生きるか…。
高齢化社会となるこれからの日本で、多くの人がこれから体験するであろう問題を、真っ向から描いた力作です。
動きも少なく、くすんだ感じの華もない映像なのに、なぜか引きつけられる…。
これこそが名俳優の持つ演技力なのかと、俳優たちの醸し出すパワーに圧倒された作品でした。
<STORY>
74歳の元ニシン漁師・忠男は19歳の孫娘・春と、北海道の増毛でふたり暮らしをしている。しかし、春が給食係として勤める小学校が廃校になったことから、春は都会でひとり暮らしをしたいと言い出した。足を悪くしてひとり暮らしはおぼつかない忠男は、どこか居候になれる家を探そうと、春を連れて本州にある兄弟たちの家を訪ねて行く。長兄の重男、三男の行男、長女の茂子、四男の道男と、それぞれの家をめぐる忠男と春だが…。
<Cheeseの解説>
74歳のおじいちゃんと、19歳の孫娘の、居場所探しの物語です。
74歳までワガママいっぱいに生きて来て、身内からも嫌われているおじいちゃんと、14歳で母に自殺されて以来、おじいちゃんの世話をしながら生きてきたけれど、やっぱり自分の好きな道で生きてみたいと思う孫娘。
コーヒーを飲んだこともなく、シティホテルに泊まったこともなく、ホテルのドアの外に靴を脱いで置いておくような、世間知らずな祖父と孫。
他に頼る者もなく、未来も暗いであろうふたりの寄る辺ない旅は、観ていてとても切なくなります。
でも、この物語は、これからの日本人が直面するであろう物語を描いているのです。
家族のつながりも薄く、誰もが自分のことだけでせいいっぱいなこれからの時代、家族の在り方はどうなっていくのか…。
ちょっと、しみじみと感じさせられる作品でした。
この映画『春との旅』は、ロカルノ映画祭で金豹賞(グランプり)を受賞した『愛の予感』などで国際的にも高い評価を受けている小林政広監督が、8年越しでシナリオを作り込んだ意欲作。
チャン・イーモウ監督の『あの子を探して』のような形で家族のオーソドックスなドラマを作ろうと考え、こういったストーリーになったそうです。
(そういえば、春が着ている赤いキルティング・コートは、なんだかチャン・イーモウっぽい。。。『初恋の来た道』のチャン・ツィイーを彷彿とさせます。)
現代に舞台をおきかえた『東京物語』であり『楢山節考』である本作、監督としては「もっと枯れてからでないと撮れない」と思っていたらしいですが、仲代達矢がこの脚本に惚れこんで、製作の運びになったとか。
仲代達矢は「長い役者人生の中でも、この脚本の出来栄えは150本中、5本の指に入る」と語るほど。
そこまで惚れこんでいるだけあって、劇中で仲代達矢が見せる演技は、本当に凄まじいものです。
ただ歩いているだけで、ただ目をぎょろりと剥くだけで、ただコーヒーを飲むだけで、忠男という男の生き様が伝わって来るのです。
『座頭市 THE LAST』で彼が見せた演技も凄かったですが、あれはヤクザの大親分という、もともとが派手な設定のキャラクター。
本作のような、現代劇で、普通の初老の男を演じていても迫力があるというのは、本当に“役そのものになりきって演じている”からなのでしょうね。。。
仲代達矢以外にも、大滝秀治、淡島千景、菅井きんといった大ベテランの名優たちが登場し、映画に深みを与えています。
こんな名優たちに混じって、一歩も引かない演技を見せた、春役の徳永えりも、なかなかの度胸の持ち主だと思います。
余談ですが、私はあまり前情報を持たずにこの映画の試写に臨みました。
「おじいちゃんと孫娘が旅に出る」という簡単な設定だけ聞いていたので、『長い散歩』のような、おじいちゃんとちびっこの物語なのかと思っていたら、違うんですね。
孫娘・春は19歳という設定でした。
でも、春役の徳永えりのちょっとやぼったい衣装の感じとか、垢ぬけない髪型とか、洗練されていない歩き方だとか、なんだか小学生のように見えていて、途中までずっと、春ちゃんは小学生なのだと思って観ていたのでした。。。
『春との旅』(134分/日本/2010年)
公開:2010年5月22日
配給:ティ・ジョイ、アスミック・エース
劇場:新宿バルト9、丸の内TOEI2ほか全国にて
監督:小林政広
出演:仲代達矢/徳永えり/大滝秀治/田中裕子/淡島千景/柄本明/菅井きん
公式HP:http://haru-tabi.com/
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