【映画レビュー】ディナー・イン・アメリカ / Dinner in America

観た人がつい主人公たちを愛してしまう映画というものがありますが、本作『ディナー・イン・アメリカ』はまさにそんな映画。

周囲からは変人扱いされたり正当に扱われなかったりするけれど、それは世界がイカれてるから。そんな世界で自分たちのピュアな愛を貫くパンクな二人を描く、風変わりでピュアなラブストーリー。
きっとあなたも、パティの初期衝動に驚き、彼女の歌声に聞き惚れ、サイモンの不器用でぶっきらぼうな姿を愛しく思うはずです。

STORY

ペットショップでアルバイトをしているパティは、両親から甘やかされ、何もできないと思われている少女。学生時代の同級生たちから変人扱いされ、今もいじめられている。ある日、バイトの休憩中に警察から逃げる怪しい男・サイモンと出会う。パティは彼を家に匿うが、実は彼はパティが大好きなパンクバンド「サイオプス」の覆面ロッカー・ジョンQだった! サイモンはパティと行動を共にするうち、自分との共通点を見出していく……。

解説

『ディナー・イン・アメリカ』というタイトルの本作には、アメリカ家庭での夕食風景が3回出てきます。
観客は、3つの家庭の夕食を見ることができるわけです。

その夕食風景は、皆、ある意味理想的な夕食に見えます。
割と早い時間に家族が揃い、きちんとセットされたテーブルで、お行儀よくディナーを食します。

しかし、その夕食風景は、言ってみればどの家族も見掛け倒し。
会話は上っ面、食事の中身は冷凍食品や出来合いのもの、家族たちは皆心ここに在らず……。
主人公のサイモンとパティは、そんなアメリカの食卓に馴染めず、どこかはみ出してしまっている二人なのです。

パティは、親から愛されてはいるものの、「この子は何もできない子」「ちょっと頭の回転が遅い子」というふうにスポイルされ、必要以上に薬を与えられたりしています。その薬を試しに飲んでみたサイモンが、ちょっととんでしまうほど。

そんなパティが大好きになったのが、バンド「サイオプス」でした。
サイオプスの曲を聴いて踊り狂う姿は、まさに“初期衝動”といった感じ。パンクの血が目覚め、騒ぎ出すのです。

対するジョンQは、コワモテの外見、荒々しい言動、アナーキーなファッションながら、実は自分なりのモラルを持った人物。ただ、敏感すぎて、人が気にならないことが気になって反発してしまうタイプなのです。
それゆえに、どんどん一人で先鋭化し、孤独に陥ってしまっていました。

パティとサイモンの出会いはまったくの偶然でしたが、彼らがお互いの精神性に気づき、惹かれ合うようになるのは必然でした。
パティはサイモンの孤独を理解し、サイモンはパティの高い精神性を理解しました。
そして、パティをいじめていた男たちに仕返しし、二人で曲を作り、サイモンのライブに参加し、パティのパンクな魂を目覚めさせ、パティに火を灯しました。

愛しあう二人の姿は、決して一般的ではないけれど、だからこそ尊く、美しく、愛らしい。。。
アダム・レーマイヤー監督は、狂った世界に生きるピュアな二人のラブストーリーを、アナーキーにキュートに描き出しました。
本作を観た人は、きっと誰もがサイモンとパティを好きになってしまうはずです。

作品情報

『ディナー・イン・アメリカ』(106分/アメリカ/2020年)
原題:Dinner in America
公開:2021年9月24日
配給:ハーク
劇場:ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
監督・脚本・編集:アダム・レーマイヤー
製作:ベン・スティラー
音楽:ジョン・スウィハート
出演:カイル・ガルナー/エミリー・スケッグス/グリフィン・グラック/パット・ヒーリーメアリー・リン・ライスカブリー・トンプソンハンナ・マークス/デヴィッド・ヨウ/ニック・チンランド
Official Website:http://hark3.com/dinner/

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