デザート・フラワー / Desert Flower
ソマリアの遊牧民出身のトップモデル、ワリス・ディリーの生涯を、エチオピア出身のモデル、リヤ・ケベデが演じた映画『デザート・フラワー』。
この映画には、ふたつの軸があります。
前半は、何も持っていなかった女の子が、素晴らしい友情と少しの幸運をきっかけに、持って生まれた美貌となにごとにもくじけない強い心を武器にして、ファッション業界でシンデレラになるまでの物語。
そして後半は、シンデレラが自分の秘密をさらけだし、自分と同じ境遇の多くの女性を救おうとする物語です。
ちょっとデフォルメされたモデル業界の内幕を楽しんだり、女の子同士のガールズトークにうなずいたりしながら、最後には深い感動をえられる、一粒で二度おいしい映画です。
<STORY>
ソマリアの砂漠で遊牧民の家族と暮らしていた少女・ワリス。14歳のある日、家に金銭援助をしてくれた老人の第4夫人にさせられそうになり、家を逃げ出した。親戚を訪ねイギリスのロンドンにやって来たワリスは、やがてホームレスに。しかし、友人の紹介でバーガーショップに職を得たワリスは、そこで有名な写真家に出会い、スカウトされる。モデルになったワリスはすぐに大きな仕事を得るが、不法滞在だということがバレてしまう…。
<Cheeseの解説>
以前、書評の仕事をいただいて、ワリス・ディリーの「砂漠の女ディリー」という本を読みました。
この本はまさに、この映画の原作者であるワリス・ディリーが、自身に施された“女性器切除”という風習を告発したもの。
女性である私にとっては読むのが辛い描写が多く、読後ちょっと虚脱感に襲われたのを覚えています。
そして、数年経った今。
あまり前情報を入れていない状態で「アフリカ出身のモデルのサクセス・ストーリーなのかな」と軽い気持ちでこの作品を観に行きました。
そして、観ている内に「あ、あの本の人なのね!」とだんだん本の内容を思い出したのでした。
本を読んだ時は、内容が内容だけに、エンターテインメント感は感じませんでした。
しかし、この映画『デザート・フラワー』は、辛い現実を告発するものではありますが、決してそれだけではありません。
じゅうぶんにエンターテインメント感もある作品に仕上がっています。
初めてできた女友達とガールズトークを楽しんだり、密やかな初恋に胸を焦がしたり、廊下でファッションショーのウォーキングのマネをしたり。
アフリカ出身で英語も満足にしゃべれず、笑顔もぎこちなかった少女が、だんだんと心からの笑顔を見せるようになる姿が、なんとも可愛らしいし、ガールズ・ムービーとして楽しむことができると思います。
なんと言ってもワリスを演じた現役モデルのリヤ・ケベデがとっても可愛い!
そして、物語は後半で、衝撃の展開をみせます。
ショッキングな現実を突きつけられ、同じ女性として、同じ現代に生きる人間として、深く考えさせられるのです。
この映画は、ワリス・ディリーの半生を描く映画です。
モデルとしての成功物語だけではなく、アフリカの一部地域で今も行なわれているという女性器切除の告発だけの物語でもありません。
このふたつのテーマを並行して描いたことで、本作は、間口の広い、ファッション好きの女の子にも、女性虐待の問題に関心のある人にも受け入れられるものになったのだと思います。
最後に、この作品を語る上で、忘れてはならないものがひとつあります。
それは、ワリス・ディリーの、自分の美や幸運を過信することなく、人を想い、人に感謝する姿勢。そして、自分の信念に沿って、勇気を持って進んで行く凛とした態度です。
それこそが、彼女に成功をもたらし、今も彼女の美しさを保たせている理由なのではないかと思います。
…と言いつつ、最初の“夫”のニールにだけは、感謝が足りな過ぎる気がしますが…。
まあ、そこは、しょうがないのかな。男と女は難しいってことで。
『デザート・フラワー』(127分/ドイツ=オーストリア=フランス/2009年)
原題:Desert Flower
公開:2010年12月25日
配給:エスパース・サロウ+ショウゲート
劇場:新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
原作:ワリス・ディリー
監督・脚本:シェリー・ホーマン
出演:リヤ・ケベデ/サリー・ホーキンス/ティモシー・スポール/ジュリエット・スティーヴンソン/クレイグ・パーキンソン/アンソニー・マッキー
公式HP:http://www.espace-sarou.co.jp/desert/
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