オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ / Only Lovers Left Alive
夜だというのに街は電気を煌々と光らせ、重低音で音楽を打ち鳴らし、人間はあやしい薬物を使っては自らの血を汚し…。
とかく吸血鬼にとって生きにくい現代に、たった二人で生きる吸血鬼の恋人たちを描いた映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』。
さすがジム・ジャームッシュ監督、彼の手にかかれば、吸血鬼の物語がとてもアーティスティックな色彩を帯びてきます。
まるでジャームッシュ監督本人であるかのような主人公・アダムと、恋人のイヴの終りのない道行きと、彼らの本能が見せる結末に、思わず釘付けにされてしまうような一作です。
エディ・コクラン、クリストファー・マーロウ、ジャック・ホワイト、ニコラ・テスラ、チェット・アトキンスなど、16世紀から21世紀まで時代をまたいで登場するミュージシャンや文学者、科学者、さらに小説の主人公の名前など、遊びもいっぱい散りばめられているので、ディレッタント的な楽しみ方もありですね。
<STORY>
米・デトロイトのアンダーグラウンドシーンでカリスマ的な人気を誇るミュージシャン、アダム。彼の正体は何世紀も生きている吸血鬼で、人前に出ず、薄暗い屋敷で年代物の楽器を愛でながら暮らしていた。そんなアダムのところに、モロッコのタンジールに住む恋人のイヴがやって来る。夜のドライブなどを楽しんでいた二人だったが、招かれざる客のイヴの妹・エヴァまでやって来てしまう。そして、エヴァがまたトラブルを引き起こし…。
<Cheeseの解説>
この映画で主人公の恋人同士、アダムとイヴを演じるのは、色素の薄い二人、トム・ヒドルストンとティルダ・スウィントン。
1981年生まれのトム・ヒドルストンと1960年生まれのティルダ・スウィントン、親子ほどの年齢差でもありますが、暗い色彩のせいで、けっしてそんなに歳の差があるように見えないのがすごいところです。
まあ、作中ではやたらとアダムがイヴの胸に顔をうずめていたり、母親に甘える赤ん坊のように抱きついていたりするシーンも多いので、実際にそう言った歳の差キャスティングにも意味があるのかも知れません。
もしくは、何世紀も生き抜いている吸血鬼にとって、20年など、人間にとっての1ヶ月、2ヶ月くらいの差でしかないという意味なのかも。。。
このアダムは、アメリカ・デトロイトのアンダーグラウンドシーンで知られる伝説的なミュージシャン。
古い屋敷にこもり、ただ一人の便利屋的存在・イアンにのみ姿を見せ、古い楽器や古い電気製品などに囲まれてひっそり暮らしています。
そこに、モロッコのタンジールに暮らす恋人のイヴがやって来て、二人は久々の逢瀬を楽しみます。
iPhoneのFaceTimeで顔を見たりはしていたものの、やはり実際に会うのは格別。
アダムはイヴの胸に顔を埋め、赤ん坊のように安らぎながら眠りに落ちるのです。。。
そんな二人のところに現れるのは、イヴの妹ではねっかえりのトラブルメーカー・エヴァ。
案の定、ビッグトラブルを作り出し、彼らを窮地に陥れるのですが…。
かつてアメリカの自動車産業の中心地であり、モータウンなど音楽産業で一時代を築き上げたけれど、今は没落してしまった街・デトロイト。
移り変わる時代を見つめながら、変わることなく生き続けてきた恋人たちは、ゾンビのように増殖を続ける人間の愚かさに毒づきながら、昔を懐かしみ、古いものを愛しながら生き抜いていきます。
不死の吸血鬼でさえ、一人では生き抜けないけれど、二人でいればなんとか生きていけるのです。
そして彼らにとっては、二人でいる恋人たちのみが、新しい吸血鬼になる資格を持つものなのです。
まさに、“Only Lovers Left Alive”.
傷つきやすい魂を持つ者にとって、愛する人だけが、生き伸びる力をくれる…。
現代社会を漂流する偉大なアーティスト、ジム・ジャームッシュは、そんなメッセージを観客に贈ってくれているのかもしれません。
別コラム:オトコに見せたいこの映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』
『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(123分/アメリカ=イギリス=ドイツ/2013年)
原題:Only Lovers Left Alive
公開:2013年12月20日
配給:ロングライド
劇場:TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、大阪ステーションシティシネマほか全国にて
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:トム・ヒドルストン/ティルダ・スウィントン/ミア・ワシコウスカ/ジョン・ハート/アントン・イェルチン
公式HP:http://onlylovers.jp
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