【映画レビュー】紙の月

紙の月 オリジナル・サウンドトラック

以前、原田知世主演でドラマ化もされた角田光代の小説「紙の月」

この物語が吉田大八監督の手によって宮沢りえ主演で映画化されたのが、本作『紙の月』です。

1997年のバブル崩壊直後、お金を扱う銀行で、多額のお金と接するうちに、タガが外れてしまった女性を宮沢りえが涼しげに演じています。
満ち足りているような、どこか欠落しているような、欠落感すら欠落しているような。
すべてを持っているような、何も持っていないような…。
業が深い女性を演じさせると、彼女は本当に光りますね。

<STORY>
1997年、わかば銀行の契約社員として渉外係を務める主婦の梅澤梨花は、優しいが鈍感な夫に物足りなさを感じていた。梨花は、優良客である独居老人の平林の家を訪ねた時、大学生の孫の平林光太と出会い、彼と付き合い始めるのだった。ある日、梨花は光太が学費のために借金していることを知る。顧客の金に手をつけた梨花は、彼に200万円を渡すのだった。信用を利用し横領を重ねた梨花は、光太と高級ホテルやマンションで豪遊を続け…。

<解説>
宮沢りえ演じる、何不自由ない生活を送っているはずの女性・梨花が、池松壮亮演じる大学生・光太との出会いをきっかけに、転落、疾走していく様を描いた本作。

時は1997年、バブル崩壊直後。
なんだかんだ言っても“お金”がまだ世間に多く流通し、“お金がある”人や“贅沢な暮らし”がまだ身近にあった時代。

そんな時代の中で「あ、私もガマンなんてしなくていいんだ」「やりたいことをやるのは、悪いことじゃないんだ」と気付いたしまった梨花は、ガマンせずに勤務先の銀行のお金を横領し、若いツバメの光太に貢ぎ、贅沢な暮らしを始めます。
高級ホテルの豪華なスイートルームで週末を過ごし、高級ブランドで山ほどの買い物をし、贅沢なマンションで光太を養い…。

直接に彼女の欲望を呼び覚ましたのは、池松壮亮演じる年下の恋人・光太です。
彼の借金をなくしてあげたい、彼に楽しい思いをさせてあげたい、贅沢な生活をして彼を喜ばせたい…、そんな想いが彼女を横領に走らせたのです。

でも、彼女に横領の道を選ばせたのは、光太だけではありません。

田辺誠一演じる夫の正文は、梨花の仕事など腰掛けにすぎないと無意識のうちに見下し、彼女が感じている自己承認感を優しい言葉で全否定します。

大島優子演じる、若手女性銀行員・相川恵子は「ちょっとした操作は誰でもやっている」と、横領が可能なこと、それほど大それたことではないことを彼女に示唆します。

そして小林聡美演じるベテラン女性銀行員・隅より子は、「様々な楽しみをガマンして真面目に働くことで何が得られるのか」という問いを、無意識のうちに梨花に植え付けるのです。

夫の正文、相川恵子、隅より子によって蒔かれた種は、梨花の中で時を重ね、光太との出会いによって発芽し、大きく成長していくのでした。。。

バブルに受かれ、お金に躍らされた人が多く存在した1990年代末期。
環境や金銭的に恵まれている人が多かったからこそ、自分の中の“空虚さ”に気付く人も多かったのかもしれません。
バブルが崩壊し、景気が低迷する現代では、彼女のようにまっすぐに欲望に向かって疾走できる女性は少ないのかもしれません。

『紙の月』(126分/日本/2014年)
公開:2014年11月15日
配給:松竹
劇場:全国にて
原作:角田光代
監督:吉田大八
出演:宮沢りえ池松壮亮大島優子田辺誠一近藤芳正石橋蓮司小林聡美伊勢志摩佐々木勝彦/天光眞弓/中原ひとみ平祐奈
公式HP:http://www.kaminotsuki.jp/

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