【映画レビュー】オン・ザ・ロック / On the Rocks

裕福で身勝手だけれど、魅力的で憎めないカリスマ的な父親に振り回される娘の姿を描いた映画『オン・ザ・ロック』
監督を務めるのは、“コッポラ家のお嬢さん”ことフランシス・フォード・コッポラの娘のソフィア・コッポラ
主人公のローラはクインシー・ジョーンズの娘であるラシダ・ジョーンズが演じています。

ローラの父親・フェリックスを演じるのは、『ロスト・イン・トランスレーション』でもソフィア・コッポラと好相性を見せたビル・マーレイ
旧世代的な男性主義ではあるものの、女好きで人たらし、自分勝手ではあるけれど、ついついその身勝手さをゆるしてしまうような愛すべきダメ男を魅力的に演じています。

この作品は、ソフィア監督のパパへのラブレターでもあり、パパからの卒業を告げる手紙ということができるのかもしれません。

 
<STORY>
NYで愛する夫・ディーンと二人の娘と暮らす作家のローラ。順風満帆な暮らしのはずが、ふとしたことから夫の浮気を疑うようになる。悩んだローラは、そのプレイボーイぶりで母を悩ませていた父・フェリックスに相談することに。フェリックスは娘のためにと張り切って、浮気調査を口実にディーンの尾行を提案する。最初は渋々だったローラも、父のペースに巻き込まれ、ディーンの行動を追ってNYの夜の街へと繰り出していく……。

 
<解説>
娘にとって、なんだかんだと大きな影響を与えている存在、それが父親です。
良くも悪くも、異性観だったり、結婚観だったり、恋愛傾向だったりに影響を与えているものです。

プレイボーイで軽薄な父親を嫌っていた娘も、自身が中年にさしかかり母となった今では、少し父親のことを許せるようになるもの。
そんな時、自分の夫の浮気を疑うようになった娘のローラは、父親のフェリックスに“男の意見”を聞くのです。
娘から頼られたことがうれしいフェリックスは、ここぞとばかりに張り切って、娘のためにあれやこれやと手を尽くします。
とはいえ、フェリックスの女性観や恋愛観、夫婦観や結婚観は一昔前のもの。
なんだかんだ言ってずれているので、ローラとの間もぎくしゃくしたりしてしまったりもし、やがて彼女の癇癪を爆発させてしまいます。

フェリックスの時代錯誤なアドバイスのせいで、ローラが夫・ディーンの浮気を疑っていたことが、ディーンにばれてしまいます。そしてフェリックスの旧世代的なやり方に従って、彼を尾行していたことを告白するのです。
しかし、ディーンはそんなローラをそっと受け入れます。
そしてローラは気づくのです。自分たちには自分たちの夫婦の形があったことを。

そうやって、自分たちの方法で夫婦の危機を乗り越えたローラは、やっとフェリックスの中にも卑小さと偉大さが存在することを知り、彼を一人の人間として受け入れることができるようになるのです。
それは、ローラが一人の人間として真の意味で独り立ちし、ディーンのパートナーとして、夫に愛される妻としての自信を持つことができるようになったことを意味しているのでしょう。

そんな意味で、この映画『オン・ザ・ロック』は、ソフィア・コッポラが偉大な父親の影響下から抜け出し、自分のやり方で映画を作っていくことを宣言しているような作品とも言えるのかもしれません。
主人公のローラを、同じく偉大な父親を持つラシダ・ジョーンズが演じているのも象徴的。
そして、この作品の音楽をフェニックスが手がけているというのも……。

持って生まれた才能とセンス、そして恵まれたコネクションで、その“ビジョン”を映像化してきたイメージのあるソフィア・コッポラ。
結婚や出産などの人生経験を経て、40代後半の一映画人として、“人生の物語”を描くことができる作家に成長したように思います。
もちろん、以前から持つ才能とセンスは健在なので、これからますます素晴らしい映画を作ってくれるのではないでしょうか。

 
『オン・ザ・ロック』(97分/アメリカ/2020年)
原題:On the Rocks
公開:2020年10月2日
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
劇場:全国にて
製作総指揮:ロマン・コッポラ/ミッチ・グレイザー/フレッド・ルース
監督・脚本:ソフィア・コッポラ
音楽:フェニックス
出演:ビル・マーレイラシダ・ジョーンズマーロン・ウェイアンズバーバラ・ベイン/ジェシカ・ヘンウィック/ジェニー・スレイト/リヤナ・マスカット/アレクサンドラ・メアリー・ライマー/アナ・シャネル・ライマー
Official Website:http://ontherocks-movie.com/

 

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